ヒグチユウコさん最新作『ファッションマジック』 人気の猫たちを、好みのファッションに変身させて遊べる仕かけ絵本!

文芸・カルチャー

更新日:2021/8/3

ファッションマジック
『ファッションマジック』(ヒグチユウコ/白泉社)

 画家であり絵本作家でもあるヒグチユウコさんの描く猫は、どうしてこんなにも見る人の心を掴むのか。繊細で、リアリスティックな絵柄のなかに漂う、幻想的な世界観。つぶらな瞳はときにダークで、ときに切なく、そして愛らしく、一度目があうと容易にそらすことができなくなる。

 現在は、絵本の原画など500点が結集した初の大規模個展「ヒグチユウコ展 CIRCUS」が長野県・上田で開催中。2019年、東京・世田谷文学館にて巡回のスタートを切った際には女優・石田ゆり子さんも足を運び、その世界に浸った思いを「余韻冷めやらぬ真夜中」とインスタグラムに寄せていたが、多くの著名人からの支持も集めている。

 そんなヒグチユウコさんの最新絵本『ファッションマジック』(白泉社)は、その魅力をかつてないほどふんだんに味わえる一冊。特徴はなんといっても、言葉がひとつも載っていないこと。ページには顔、胴体、足を分ける2か所に切り込みが入っていて、ぱらぱらめくるだけで自分の好みに表情とファッションをカスタマイズできるという仕掛けなのだ。装丁は名久井直子さんが担当している。

 耳に花飾りをつけた上目遣いの猫。赤い水玉帽子をかぶったちょっとやんちゃな雰囲気の猫。煌々と輝く王冠を頭にのせた貫禄のある猫。なんだか老獪な雰囲気を漂わせた猫……。そのイラスト数、なんと27枚×両面。白猫、黒猫、ぶち猫と、毛並みもさまざまな猫たちを、もともとのスタイルで愛でるだけでもたまらないのに、ぱらぱらとページをめくっていくだけで、さまざまな組み合わせを楽しめることになる。なんという贅沢だろうか。

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 ファッションが変わるたび、猫たちから受ける印象が変わっていくのもおもしろい。たとえば花飾りをつけた猫が、ワンピースを着ているときはおしゃまでおしとやかな女の子そのものなのに、スポーティなTシャツスタイルと組み合わせたとたん、やんちゃな悪戯っ子に見えてくる。どこかすました様子の黒猫は、モダンな装いをしているときは孤高の雰囲気をかもしだしているのに、LOVE&PEACEと書かれたシャツを身にまとえば、大勢の仲間を率いる頼りがいのあるリーダーのようである。もちろん、もとの絵を見て誰もが同じ印象を抱くとは限らないので、これはただの一例だけど、猫って、ヒトって、装いでこんなにも印象が変わるものなのか、と驚かされる。まさにファッションマジックとしか言いようのない一冊だ。猫だけでなく、ときどきうさぎや犬がまざっているのも、また楽しい。

 この子はどんな猫だろう、どうしてこんな顔をするのだろうと、ぱらぱらページをめくりながら無限にひとり遊びを楽しめる本書。お気に入りの組み合わせもたぶん、その日の気分によって変わるだろう。毎朝、起きたときに好きな猫とコーディネートを選んで、ページを開いたまま部屋に飾っておくのもいいかもしれない。

文=立花もも

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