挑戦もせずに夢を諦めるのはもったいない! チャンスを掴んだ27歳の、遅咲き青春ストーリー

マンガ

公開日:2021/8/31

利口になるには青すぎる
『利口になるには青すぎる(1)』(大沼隆揮:原作、内田裕人:著/講談社)

 子供の頃、学校などで「将来なりたい職業」について聞かれたことが、誰しも一度ならずあると思う。そのときは無邪気に、その時代の人気職業あたりを挙げて自分の将来の姿を夢想していただろう。しかし年齢を重ねていくうちに、自らの適性や限界を知り、就業可能な職業に落ち着くケースが多いこともまた事実だ。問題は、どの時点で現実を知り「利口」になるのか──。『利口になるには青すぎる(1)』(大沼隆揮:原作、内田裕人:著/講談社)は、自らの夢を見失っていた若者が、その夢に向かって動き出す物語である。

 主人公・桜田はるとは27歳だが定職には就いていない、いわゆる「ニート」である。はるとは趣味のゲームに時間を費やし、その日その日を生きていた。そんな彼の日常に一石を投じる出来事が起こる。幼馴染で、現在は歌手になっていた木枯ゆきから、ゲーム実況番組への出演を誘われたのだ。はるとたちは子供の頃、4人で「四角レンジャー」というチームを組んでおり、その縁である。誘われるままテレビ局へ向かったはるとだが、再会した幼馴染たちが立派に社会人をやっている姿に所在ない状態。しかもシューティングゲームのプロチームを相手に作戦会議もできず試合に臨むことになってしまい、はるとはひとりでプロと戦うことを決意。第1戦で4人を倒してしまう。しかし、そんなはるとにゆきは怒り、彼らは昔の「四角レンジャー」として全員で戦いに挑む。結局、対戦では負けてしまうが、はるとたちはプロを本気にさせる健闘を見せたのだ。そして対戦相手のプロチーム「クレイジーチキン」から、はるとは賞賛の挨拶と共にスカウトを受けるのであった。

 本作はいわゆる「eスポーツ」を題材に、世間では「いい歳をした」といわれる年齢の桜田はるとが夢に挑戦する姿を描く青春ストーリー。スカウトを受け、クレイジーチキンの施設へと向かったはるとは、その設備に驚かされる。だがそこで練習しているプレイヤーたちはどこか苦しそうで、楽しんでゲームをしたいはるとは違和感を覚えたのだ。そんなはるとにチームのリーダー・アオイは「本当の楽しさが分かっていない」と指摘。彼はちょうどメンバーが足りなくなった練習試合に、はるとを参加させることに──。

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 はるとはこの練習試合で、自分が求めていた「本当の楽しさ」を知ることになる。元々ゲームが好きで、その腕はプロにも引けを取らないものであったのだが、プロを目指す自信も覚悟もなかった。だが実際にプロと対等に戦い、本気のプレイヤーたちを見たはるとは、ここが「自分の居場所」だと感じたのである。そして彼はクレイジーチキンへの参加を決意し、強豪ひしめくプロの世界へと身を投じていくことになるのだった。

 もちろんはるとがプロチームに認められたのは、その技量があってこそである。しかしそれは、彼が常にゲームの腕を磨いていたからで、テレビでの対戦をきっかけとして、一気にブレイクスルーを果たしたのだ。これはおそらくeスポーツに限った話ではないだろう。web漫画やweb小説発のヒット作が増えているのも、好きなことをコツコツ続けていた人たちが作品を発表する場を得て、それが認められた結果なのではないか。だからもし好きなことを長く続けているけれど、プロを目指すのを逡巡している人がいるなら、一度はチャレンジしてみてほしい。一度も挑戦せずに諦めるのは、やはりもったいないと思うのだ。「利口になる」のは、それからでも遅くないのだから。

文=木谷誠

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