長篠合戦の勝敗を分けた要因とは何だったのか。信虎・信玄・勝頼の史実をひもとき戦国時代を疑似体験できる『武田三代』

文芸・カルチャー

更新日:2021/10/11

武田三代 信虎・信玄・勝頼の史実に迫る
『武田三代 信虎・信玄・勝頼の史実に迫る』(平山優/PHP研究所)

『武田三代 信虎・信玄・勝頼の史実に迫る』(平山優/PHP研究所)は、戦国武田氏のおよそ100年間の生き様を堪能できる1冊だ。

「できる限り、多くの情報を盛り込むことで、本格的な武田三代の通史を目指したものである」と、あとがきにもある通り、情報の多さは他に類を見ない内容になっているのではないだろうか。

 武田氏の中で最も有名なのは武田信玄だろう。そのため、信玄に関する書籍を読んだことがある読者も多いと思うが、信玄だけではなく、その父親(信虎)と息子(勝頼)の時代を通して読むことで、一層、信玄への理解に繋がると思う。戦国期の甲斐国の情勢について知りたい方にもオススメだ。武田氏によって統一されていく甲斐の国衆たちの動きが分かりやすくまとまっている。

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 また、本書のような通史を読むことで、「これぞ戦国時代」を体感できたような面白さがあった。

 武田氏だけではなく、北条氏、今川氏、徳川氏、上杉氏、織田氏といった有力大名たちは、「同盟を結ぶものの、決裂」を繰り返すことが多くあった。それは一対一の同盟だけではなく、例えば北条、今川、武田、で同盟を結び非戦の誓いを立てたものの、それが決裂し、武田は新たに徳川に近づこうとするが、徳川は北条と今川寄りの動きを見せ、武田は不信感を募らせていく……等々。

 そういった大名同士の複雑な関係が入り乱れる様子は、まさに戦国時代の群雄割拠を読みながら体感しているような感覚になれた。そういった読み方ができるのも本書の魅力のひとつだろう。

 さらに通史だけではなく、本書では最新知見に基づいた考察も挟まれている。

 信玄の父、信虎は「悪逆無道」だったため信玄によって国を追放されたとされているが、信虎をただ「ひどい人格」だったと結論づけるのではなく、そういった印象を家臣や領民から持たれてしまった外的要因を探ったり、長篠合戦で武田が負けた理由を新しい見方から考察したりしている。

 長篠合戦でよく言われているのは、武田軍は昔ながらの古い戦い方をしていたので、銃という最新武器を軸に、画期的な戦いを繰り広げた織田軍に負けたという説。しかしこれは、近年では誤りだとされている。武田軍も鉄炮を積極的に取り入れており、伝統的な戦いに固執していたわけではない。勝利した織田と敗北した武田の違いは、銃の有無ではなく、銃を使うために必要な鉛や、硝石の量――つまり、「物資の差」だったのではないかと、古戦場で出土した鉄炮玉を化学分析した結果から導き出している。こういった最新知見に基づく見解も、本書の面白さである。

 本書は武田氏が滅亡するところまで綴られているが、読者にはぜひ武田氏およそ100年の流れを通し、「なぜ滅亡してしまったのか」を考えてみてほしい。個人的には、ひとつの決定的な判断ミスではなく、小さな誤りが蓄積された結果であり、また、人の力ではどうしようもない「時の運」もあったように感じた。本書を通して、そんなことを考えられるのも、歴史の醍醐味だろう。

文=雨野裾

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