自分の心の声、聞こえていますか? 迷った時には大人も読みたい、安東みきえさんの新作絵本
公開日:2021/11/11

自分が自分らしくあるために大事にしたいこと。ずっと心に留めておきたいのに、つい忘れてしまいますよね。そのせいで心が苛立ったり、小さなことが気になってしまったり。そんな時にはこの絵本をぜひ読んでみてください。
『メンドリと赤いてぶくろ』(KADOKAWA)は、ユニークな切り口で物事の真理を伝える、安東みきえさんの新作絵本。安東さんの作品は子どもから大人まで楽しめると評判で、2019年に刊行された『ふゆのはなさいた』は、第1回TSUTAYAえほん大賞8位にランクインしました。柔らかみのある色合いで、見ているだけでも心が温まる今作の絵は、村尾亘さんが手がけています。

丘の家で風に吹かれる、ゆうちゃんの赤い手袋。この手袋、右手と左手で仲が悪い。手袋の持ち主は右利きなので、右手は「ぼくのほうが偉い」といばっているのです。どちらが立派なのか決めようと、右手がグーパンチを繰り出した時、強い風が吹いて、右の手袋は風に飛ばされてしまいました。

風に飛ばされた先では、メンドリたちが集まり、「メンドリは大声で鳴いてはいけない」と若いメンドリを叱っているようです。「立派なトサカのオンドリだけが鳴ける」と聞いた若いメンドリは、「立派なトサカがあればいいの?」と首を傾げます。

若いメンドリは赤い手袋をスポンと被り、「これで鳴いてもいいんでしょ」と言います。新しい日がきたことを鳴いてみんなに伝えるのが、ヒヨコの頃からの夢だったから。でも、池に映った自分の姿はとてもおかしな格好。「オンドリの真似をするなんて滑稽」と、手袋をそっと草に下ろすのでした。
ひとりぼっちになった手袋は、雪が降り出した寒空を眺めながら、「ゆうちゃんの小さい手は、凍えていないだろうか」と考えます。ぼくが温めてやらなくちゃいけなかったのに……。
形や体裁にとらわれないで
自分のほうが立派だといばったり、滑稽な真似事でごまかそうとしたり、赤い手袋と若いメンドリは、自分が自分らしくあるために大事なことを見失っていたのかもしれません。ところが、偶然の出会いがふたりの未来を大きく変えます。決して答えが書いてあるわけではありませんが、読んでいるほうも「忘れかけていた大事なこと」に気付かされる本書。読み終えた後は、モヤがかかった心に青空が広がるように、晴れやかな気分になります。
作者の気持ちが伝わる、大切にしたい1冊
本作は、ラストまでぜひ読んでほしい1冊です。最後のページに登場する、オンドリのように大声で鳴くことに否定的だったメンドリの言葉はとても力強く、作者のエールのようにも思えて、しばらくその言葉から目を離せずにいました。また、物語のところどころに思いやりや優しさが感じられ、作者が本書にこめた気持ちが伝わるからこそ、大切にしたい1冊だと感じました。
もちろん、子どもにも、人生で忘れてはならない大事なことを教えてくれるはず。メンドリたちの場面では、子どもがハマりそうな愉快な言葉遊びも登場します。
安東さんの作品は表現が独特で、言葉にはさまざまな表現があることも伝えられそう。たとえば、朝がきたことを知らせたいメンドリが流す涙は、「朝つゆみたいなしずく」。こんなふうに洒落の効いた表現ができるようになったら、きっと素敵だと思います。
文=吉田あき
■『メンドリと赤いてぶくろ』KADOKAWA
https://yomeruba.com/product/ehon/322012000479.html
【『メンドリと赤いてぶくろ』絵本原画展】
①東京
期間:2021年11月26日(金)~12月28日(火)
場所:ムッチーズカフェ(西荻窪)
https://mucchis-cafe.jimdofree.com/
②岡山
期間:2022年2月4日(金)~2月22日(火)
場所:つづきの絵本屋
https://tsuzukinoehonya.com/
※①②ともにサイン本販売があります。
※新型コロナウィルス感染拡大により、変更・中止になる場合があります。