「ファーストガンダム」の伝説的エピソードから誕生したコミック! ジオン脱走兵の物語『機動戦士ガンダム THE ORIGIN MSD ククルス・ドアンの島』

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更新日:2022/6/3

塩の樹と森の人魚
『機動戦士ガンダム THE ORIGIN MSD ククルス・ドアンの島』(おおのじゅんじ:漫画、カトキハジメ:メカニカルデザイン、ことぶきつかさ:キャラクターデザイン、矢立肇・富野由悠季:原作、安彦良和:漫画原作/KADOKAWA)

 アニメ「機動戦士ガンダム」の第15話「ククルス・ドアンの島」を基にしたスピンオフコミックが、『機動戦士ガンダム THE ORIGIN MSD ククルス・ドアンの島』(おおのじゅんじ:漫画、カトキハジメ:メカニカルデザイン、ことぶきつかさ:キャラクターデザイン、矢立肇・富野由悠季:原作、安彦良和:漫画原作/KADOKAWA)だ。

 なおこの「ククルス・ドアンの島」のエピソードは2021年9月に、2022年の劇場公開が突然発表され、今熱い注目を集めている。なぜならファンには「機動戦士ガンダム」の隠れた名エピソードのひとつとして知られている割に、「劇場版 機動戦士ガンダム」ではカットされ、安彦良和氏の『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』(KADOKAWA)でも描かれなかったからだ。制作中の『機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島』は「第15話を改めて映像化する」と明言されているが、果たしてどんな映像と解釈になるのか、期待は大きい。

 そんななか、本稿では主人公のククルス・ドアンも含めた兵士たちが一年戦争に翻弄される姿を描いたコミック『機動戦士ガンダム THE ORIGIN MSD ククルス・ドアンの島』を紹介したい。まずはあえて言おう、名作であると!

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ククルス・ドアンの脱走後、元部下たちが駆け抜けた一年戦争

 最初に「ククルス・ドアンの島」のあらすじをおさらいしておく。アムロ・レイは連邦軍の緊急信号を受けて、コア・ファイターで近くの島へと向かった。不時着した戦闘機とそのシートに座った瀕死のパイロットを見つけたところでジオン軍のモビルスーツ(以下MS)・ザクが現れ、アムロは撃墜され気を失う。目が覚めた彼の前には親を失った複数の子どもと、ククルス・ドアンと名乗るジオンの脱走兵がいた。

 実はドアンは子どもたちの親を殺しており、罪の意識に囚われていたのだ。主人公と敵兵との交流と、戦争によって生まれる悲しい現実を描いた名エピソードである。

 そんなククルス・ドアンは、試作MSの試験を専任とする「開発訓練Y-02小隊」を率いていた……というのが本作のストーリー。そのY-02小隊にいた兵士たちの視点で、ドアン(の脱走)と一年戦争の大局を描いている。

 宇宙世紀0077年に結成されたY-02小隊は2年後の0079年、地球に降下。MSのテストと“特殊任務”を行っていた。だが連邦軍のオデッサ作戦が近づいているさなか、小隊は解体される。理由はドアンの脱走だ。

 ドアンは部下のヴァシリー・ボッシュに「軍を抜ける」とだけ告げ、ヴァシリーの目の前から姿を消す。小隊の創設時からの兵士たちは、2名ずつ北米、ヨーロッパに分かれて再配置となった。

 ヴァシリーと元副隊長のキッツは北米、狙撃手の女性兵士・カルカと、臆病だが運のいいヤル・マルはヨーロッパでそれぞれ戦う。そこで彼らは連邦の新型MS・ガンダムと交戦する……。元Y-02小隊の面々はオデッサ、ジャブロー、そして宇宙での最終決戦まで戦い続けるが、どの場所でも彼らの前にはさまざまなバリエーションのガンダムが立ちふさがる。果たしてヴァシリーたちは、生き延びることができるか?

描かれるのはカトキハジメ氏デザインMSのバトルと宇宙世紀のリアル

 本作タイトルに入っている「MSD」(Mobile Suit Discovery)とは『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』の作品世界で展開する「MSに関する膨大な資料を編纂する計画」のこと。物語には、その資料にある多くの試作MSが登場する。

 ザクの前身である「ヴァッフ」や「ブグ」。そして当時のザク系の最終進化版「アクト・ザク」。連邦軍もキャノン砲を装備した「局地型ガンダム」や「水中型ガンダム」、重装甲の「ヘビーガンダム」などが登場。地上、水中、宇宙で行われるMSの戦闘シーンも本作の見どころのひとつだ。なおこれらの一部はガンプラとして発売されている。

 基本的に本作は「機動戦士ガンダム」15話、そして制作中の劇場版『機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島』とはパラレルな関係にある。それでも、おおのじゅんじ氏の紡いだ物語は、“宇宙世紀のリアル”にあふれている。

 アニメのいちエピソードからコミックが生まれ、さらに映画化という、ファンにとっては驚きの活躍(?)を見せているククルス・ドアン。ある意味、ガンダム作品の中で彼が一番の出世キャラかもしれない。

文=古林恭

(C)創通・サンライズ

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