“ヘビが好きな自分”は変わってる? ほかの誰とも違う、ハナに見える「きれい」な世界とは

文芸・カルチャー

更新日:2022/1/15

ハナはへびがすき
『ハナはへびがすき』(蟹江杏/福音館書店)

 自分の好きなものと他人の好きなものが違うことなんてよくあること。そうはいっても、好きなものを友達から「嫌い」と言われたらやっぱり悲しい。そんな時はどうすればいいだろう? 怒って喧嘩するのか、逆に泣いてしまうか、それともただ我慢するだけか。でも、それで自分の気持ちは晴れるのか。そんな時に読んでほしい絵本を紹介したい。子供だけでなく、大人にも読んでほしい一冊だ。

『ハナはへびがすき』(蟹江杏/福音館書店)は、生き物が大好きな女の子・ハナが主人公。でも、ハナが好きな生き物はみんなからは「きもちわるい」とか「へん」とかいわれてしまう。というのも、ハナが特に好きな生き物はヘビなのだ。読者の皆さんの中にも、もしかしたら苦手な人がいるかもしれない。そもそも、なぜハナはヘビが好きなのだろうか。

 ヘビが苦手な人たちは、どうして苦手なのか。シュルシュルと伸びる舌にクネクネとした体を怖いと思うのか、気持ち悪いと思うのか。ハナにとってはそれこそがヘビの魅力で、「おいしそうな ものを みつけたら、しゅるりと のびる ながい した よくみると、へびの からだは もようも きれい。 ようふくを きせてあげたよ」と描写する。読者の皆さんは、こんな風に表現されたヘビをどう思うだろう。自分は一般的なヘビの印象とは違う風に感じたが、同じ印象を受ける人も多いのではないだろうか。

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 ハナはヘビだけではなく、ハチの仲間「コマルハナバチ」も好きだ。ハナは“赤い甘い蜜の出る花のところ”でハチを捕まえると、糸で結び、筆箱に入れて連れてくる。絵本では、開かれた筆箱から飛び出した、糸で結ばれたコマルハナバチたちが、ハナの周りを舞い飛ぶ姿が描かれており、なんとも面白い光景になっている。オスのコマルハナバチは針を持っていないので刺したりしないそうだが、でも、それを知らない周りの友達は困った顔をしている。

 他にもハナはいろいろな生き物が好きだけど、それらはどれも周囲から「へん」といわれてしまうものばかりなのだという。でも、ハナの目で見ると、ヘビやハチと同様に、そんな生き物たちのいきいきとした美しさが見えてくる。例えばカエル。ヌルヌルとした体が苦手な人も多いけれど、ハナにいわせれば「カエルの おなかは ぴかぴか ひかった しんじゅみたい」となる。こんなに自由なハナの発想が実に面白い。

 トカゲに対しては小さな手がかわいらしいと言い、模様を千代紙みたいとたとえる。ミミズは、白い節が玉子の白身のようで、体はパパの飲んでいるビールの色。クモは雨上がりの巣についた水滴がネックレスみたい、だと。コウモリなら、夕焼けの中をやってくる黒い群れが海賊みたいで、その顔は笑っているみたい、と表現している。ハナから見たら、こんなにきれいな生き物たちなのに、周囲のみんなからも家族からも、「へん」といわれてしまうのだった。

 ハナは友達が大好きな人形もリボンもピンク色も、素直に可愛いと思える。だからこそヘビたちの美しさも素直に表現するのだろう。そんなハナは、「やっぱりみんなにすきになってもらいたい!」とみんなに自分の大好きな生き物たちをどうしても会わせたくて一緒に連れて行くのだが……。

 誰だって、自分の知らないものを怖いと思うのは仕方ないことだけど、ただ怖がっているだけじゃ人間は新しいことを学べなくなる。少しずつでいいから、自分の知らないことに目を向けてほしいと小生は願う。ハナのように自分の「好き」が他人に受け入れられない人もいるだろう。そんな人も「好き」をあきらめないでほしい。きっと他にも共感したり同じ思いを持ってくれたりする人はいるはずだ。このお話の結末を読むたびに、あらためてそう思う。

文=犬山しんのすけ

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