双子の性別入れ替わりから「男/女らしく」への反発を描く『ふたごチャレンジ!』

文芸・カルチャー

更新日:2022/1/17

ふたごチャレンジ
『ふたごチャレンジ! 「フツウ」なんかブッとばせ!!』(七都にい/角川つばさ文庫)

 私には6歳の息子がいるのだが、子どもといっしょにむかしの児童書や児童マンガを読んでいると、「女のくせに」とか「男でしょ!」といった表現がしばしば出てきて、目についてしまう。良書・名作は長く読まれてほしいと思う一方で、そこにある古くさいジェンダーロールを今の子どもに刷り込み、「この性別ならこう振る舞うべき」という規範意識を再生産することには抵抗感がある。

 そういう価値観に窮屈さを感じているのは子どもの側も同様だ。

 第9回角川つばさ文庫小説賞金賞受賞作として2021年12月に刊行され、早くも重版がかかった七都にい『ふたごチャレンジ! 「フツウ」なんかブッとばせ!!』(角川つばさ文庫)に対する読者の反応を見てほしい。出版社による作品の紹介サイトでは、読者から以下のような声が寄せられている。

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僕は、女として生まれてきたけど、1年ぐらい前から、男として生きていきたいと思うことが増えてきました。これって、変ですかね?コメントしてもらえると、嬉しいです。(しなくてもいいです!)

2022年01月06日 小学6年 女 リトルナイトメア

私もあかねくんと同じ感じで悩んでたけどあかねくんも同じなんだっておもったら気が楽になりました
ありがとうございます!

2022年01月02日 小学6年 ないしょ 玲音

『ふたごチャレンジ!』は、小学4年生の二卵性双生児、サッカー好きで活発なあかねと、かわいいキャラクターやドレスを着ることが好きなかえでが、引っ越しして親元を離れて祖母といっしょに暮らし、転校することになった先の学校で、性別を偽って過ごす、という物語だ。

 あかねは生物学上の性別は女性、性自認も女性だが、男の子として振る舞う。

 かえでは生物学上の性別は男性、性自認は(作中で断言されてはいないがおそらく)女性で、女の子として振る舞う。

 ふたりは両親や転校前の学校の友だちや先生から「男/女なんだからこうしなさい」「そんなの女/男らしくない」と言われることにうんざりしている。

 もちろん、性別の入れ替えがバレないはずがなく、大問題に発展する。

 担任や校長は「男の子/女の子はかくあるべき」ということを押しつけてくるし、かえでのことを女の子だと思って好きになったクラスの男子は、どうしたらいいかわからなくなってしまう。

 あかねとかえでは、時に反目しながらも、互いの一番の理解者として支え合う。

 ともに大人からの抑圧に立ち向かい、同年代の子たちからの誤解や偏見、「騙された」「裏切られた」といった反応に向き合っていく。

 そこには子どもたちが感じている窮屈さをすくいとり、それを打破してみせるという、児童文庫のエンターテインメントらしい痛快さとスピード感がある。

 ふたごは決して、正義の御旗のもとに振る舞っているわけではない。あかねとかえでもまた偏見に基づいて他人と接していたことに反省をし、学んでいくさまを描いている点に、この作品の誠実さを感じる。

 保護者や教師、司書といった大人は自らの振る舞いや価値観を顧みるためにも、あかねやかえでのような悩み、違和感を抱えているかもしれない子たちを理解するためにも、また、子どもたちが気づきを得るためにも、この本を手に取ってほしいと思う。

 そして子どもたちの手の届くところにそっと置いておいてほしい。

文=飯田一史

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