うつ病から復活した元エリート自衛官から学ぶ、心が安全でいられる危機管理術

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公開日:2022/2/5

この世を生き抜く最強の技術
『この世を生き抜く最強の技術』(わび/ダイヤモンド社)

 今の世を生きている人なら、個人の資質に関係なく誰にでもうつ病になる可能性がある。というのも、毎日心身を鍛えている自衛隊員、しかも新人ではなく幹部にまでなった人でさえなるのだから……。『この世を生き抜く最強の技術』(わび/ダイヤモンド社)は、元エリート自衛官だった著者のわび氏が自身のメンタルダウン経験をもとに、日頃から行っておくべき「心の危機管理」の重要性を呼びかけた一冊。うつ病なんて自分には関係がないと思っている、すべての働く大人が知っておくべき内容だ。

 著者は、陸上自衛隊一般幹部候補生として入隊後、朝6時のラッパで起床、点呼後腕立て伏せをするという日々が苦ではなかった人物。むしろ、「心身ともに強くたくましくあれ」という合言葉に心酔し、成績優秀な「意識高い系」幹部として、充実した自衛隊生活を送っていた人物だ。東日本大震災の際の災害派遣、日米共同方面隊指揮所演習など、重要な場面での責任あるポジションも務めたという。


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 ところが、転属を機に上司によるパワハラで、思ってもいなかったメンタルダウンに陥ってしまう。そのダウン具合は、別の上司に相談するとか転職するといった選択肢は頭から消え、上司の目を気にして自販機で好きな缶コーヒーを選ぶこともできなくなるほどだったそうだ。ついに、職場で倒れてしまった著者は休職し、病院に通いながら自宅療養することに。

 現在は回復し自衛隊から2度の転職を経て外資系企業で働く著者は、メンタルダウン当時を振り返り、自衛隊時代に叩き込まれた危機管理方法を、人の心にも当てはめる必要があると痛感したそうだ。

 さて、著者は心の危機管理方法として、どんなことを推奨しているのだろうか。一部を挙げてみる。

○元気なときの自分の心身の状態を把握しておこう。
○食事が美味しくないなどの僅かな心の悲鳴を拾おう。(つまり、本格的なうつ病になる前に対策が取れるようにしておくということ。)
○他人にどう思われるかという恐れを手放して、疲れているときにはしっかり休もう。

 こんなこと、もう知っているという人も多いだろう。しかし、知識として知ってはいても、実践しているかと言われると自信がないというところが本音ではないだろうか。実は筆者も、僅かなサインを無視してまだまだ大丈夫と進み続けた結果、ダウンしたことがある。他人の目が怖くて休む勇気がなかったことと、その方法を知らなかったからだ。

 休む勇気が出せない時には、本書の「辞める覚悟ができている人が実は一番有能」の章が効きそうだ。本当に辞めるかどうかはひとまず置いておいて、明日からは今の会社の人たちと二度と会うことはないと思えば、相手の忖度なしに言いたいことを言い、無駄なく目の前の仕事に集中できるからだ。さらに著者は、本当に転職を視野に入れるとしても、転職35歳限界説はもはや昔の話で、現在は多くのフィールドが広がっているという明るい情報も載せている。

 また、パワハラに遭わないためには、「一線越えてきたら撃ちますよ」の気概を持てと述べる。理不尽な要求を押し付けてくる人がいたら、皆の前で堂々と反論して「こいつめんどくせー」と相手に思わせるべし、だとか。

 また、休む方法の究極は「おうち入院」だという。家で、うつ病での入院を想定して過ごすのだ。具体的には、「激しい運動をしない、人と会わない、ひたすら寝る、ゲームをしても22時には消灯」など。とにかく何かをすること自体がタブーなのだとか。とはいえ、同居人の有無などで難しい人もいるだろう。そんな人のために、著者はコンビニ飯や家事代行などを使って、なるべくやることを減らすことを勧めている。これは、覚えておきたい知恵だ。

 元気で順調な時にこそ、備えておきたい心の危機管理術。明日会社を辞めるつもりで今日出勤する心構えは、臆病な筆者のような人でも、人の目を気にしないという勇気に繋がりそう。いざ、逃げる準備万端で日々に立ち向かおう!

文=奥みんす

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