出会い、別れ、人生はつづく。ロードムービーのように

小説・エッセイ

2012/11/3

晴天の迷いクジラ

ハード : Windows/Mac/iPhone/iPad/Android/Reader 発売元 : 新潮社
ジャンル:小説・エッセイ 購入元:紀伊國屋書店Kinoppy
著者名:窪美澄 価格:1,296円

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全4章からなる中編小説だが、第3章までのストーリーはずっと暗い(というと誤解されるかもしれないので先に書いておきますが、暗くて悲しい部分でも、著者の文章力のなせる技でどんどん読み進んでしまうので、辛い読書ではないです)。

第1章「ソラナックスルボックス」は上京してデザイン事務所に入社したものの、不況で事務所が傾き、必死で仕事をしている間に恋人との関係も悪くなり、うつになってしまった青年、由人が主人公。

第2章「表現型の可塑性」はその事務所の社長・野乃花が貧しさを才能で乗り越えようとしながら、地元政治家の息子に手を付けられ結婚するも、東京に逃げてきてしまう物語。

第3章「ソーダアイスの夏休み」は門限や食べ物の制限など友達もできないほど母親に過剰に保護されて育った正子の物語と、どれも元気が出るような話ではない。

しかし第4章「迷いクジラのいる夕景」で3人が行動を共にすると、途端に物語が加速する。ぐんとドライブ感が出てくる。自殺しそうな人の気を逸らしたいという咄嗟の思いつきから、湾に迷い込んだクジラを見に行く旅。3人ともが母親とのコミュニケーションに何かしら問題を抱えている。幼少時母親の関心がほぼ長男に集中していてネグレクトに近い状態だった由人、逆にがんじがらめの母親の監視下で育った正子、母親と違う価値観に苦しんできて、結果母親にはなれなかった野乃花。そんな3人が旅をするうち、家族のようになっていく。彼らが旅で出会う人々にもまた、読者の心を震わせるエピソードがあり、そのことで物語はさらに奥行きを増す。
そしてドラマティックな山場へ。一時期“再生の物語”というキャッチが流行ったことがあったが、本書こそまさにそれだ。


第三者から見た修羅場はときにユーモラスだ。こういうところがすごくうまい

野乃花の舅のエピソード。壮絶な人生を送っているのは主人公たちばかりではない

成長して自我が芽生えるにつれ、支配的な母親から逃げ出したくなる正子

旅先で出会ったおばあさんの、戦争のときに亡くなった友達の名前も正子だった