家賃が高すぎ⁉ 3人のルームシェアは波乱の幕開けに…『おしりたんてい』スピンオフ!/すずのまたたびデイズ はちゃめちゃパティシエしゅぎょう③

文芸・カルチャー

公開日:2022/12/7

すずのまたたびデイズ はちゃめちゃパティシエしゅぎょう
すずのまたたびデイズ はちゃめちゃパティシエしゅぎょう』(原作:トロル、文:井上亜樹子、絵:雛川まつり/ポプラ社)

おしりたんていスピンオフシリーズ第1巻。 主人公はラッキーキャットのすず! おしりたんていファイルシリーズから数年後。 ラッキーキャットの手伝いを続けるすずは、自分のやりたいことがわからず、もんもんとする日々。そんなとき、学生時代からの親友・あずきにさそわれ、もう一人の親友・グレねえと3人でルームシェアをすることに! あずきのかんちがいで実は超高額だった家賃を支払うために、アルバイトにあけくれながら、なかよし3人組の新生活(またたびデイズ)がはじまる!

 ガタガタ……

 ゴトゴト……

 みんなで、なかよくお弁当をつまんでいると、車はとなり町のデコボコタウンに入りました。

 あたりには、知らないお店がたくさんならんでいます。

 グレねえが言います。

「けっこう、活気のある町だね。商店街もあるし、アタシたちの家はこのあたりかい?」

 あずきが答えます。

「うん、そろそろね」

 ガタガタ……

 ゴトゴト……

 けれど、あずきのことばとはうらはらに、車はなかなかとまりません。

 お弁当はいつの間にか半分になっています。

 活気のあるエリアをすぎて、あたりは、りっぱな家が立ちならぶ住宅街になってきました。

 すずが言います。

「このあたりも静かでいいね。住宅街だし、あたいたちの家はこのあたり?」

 あずきが答えます。

「うん、そろそろね」

 ガタガタ……

 ゴトゴト……

 やっぱり車はとまりません。

 お弁当は、もう空っぽです。

 住宅街をすぎると、あたりの人気もなくなり、木々ばかりがさみしく立ちならんでいます。

 グレねえが言います。

「……自然がゆたかでいいね。さすがにそろそろ、アタシたちの家はこのあたり?」

「うん、そろそろね」

 ガタガタ……

 ゴトゴト……

 やっぱり車はとまりません。

 今や3人を乗せた車は、森の中の道なき道を、不安げに進んでいます。

 すずはだんだん、心配になってきました。

 ひょっとして、あずきはこのサビオにだまされているのではないでしょうか。こんな森の中に家なんてあるはずがありません。

 なにか悪いことにまきこまれるのかもしれません。すずはサビオを追いつめて、本当のことをはかせてやろうと、ひそかに、つめをとぎはじめました。

 そのときです。

 キキーッ! と車がとまりました。

「ついたよ! ここがあたしたちのおうち!」

 あずきは車からとびだします。

 そこにあったのは、森の中のお城でした。

 物語の中でしか見たことのない、格調高いとんがった三角屋根、つたのはうレンガかべ、ゆるやかな曲線をえがく鉄の門をそなえた、見事なおやしきです。

 木々を背景に、どうどうとたたずむようすは、まるでこの森の王様です。

 すずもグレねえも、おどろいてことばもありません。

 サビオが門を開き、げんかんとびらを開けてくれます。

「さあ、どうぞ」

 中に入ると、おやしきは、ますますごうかでした。

「うわあ……!」

すずのまたたびデイズ はちゃめちゃパティシエしゅぎょう

 すずは開いた口がふさがりません。

 そんなすずを見て、あずきは得意げです。

「すごいでしょ! 気に入ったでしょ!」

 グレねえが、おそるおそるききました。

「……で、家賃は?」

 するとあずきは、ますます得意げな顔になります。

「ふっふっふ。おくさん、きいておどろけ。なんとこの広――いおやしきが、今ならたったの、ひと月5万マドカ! びっくりプライスなのだ~!」

「そりゃすげえ!」

 すずがこうふん気味に言いました。

 グレねえはサビオにたずねます。

「本当かい?」

「いえ、うそです」

 サビオはあっさり言いました。

 しばらくの間、沈黙が落ちます。

すずのまたたびデイズ はちゃめちゃパティシエしゅぎょう

 やがてあずきが、ロボットのようにぎこちない動きで、サビオをふりかえりました。

「……え?」

「お客様、ごじょうだんがお上手ですね。こちらの家賃は5万マドカではなく、50万マドカです。ほら、ちゃんと契約書に書いてあるでしょう」

 サビオは、かばんから契約書を出して、あずきに差しだします。

「いち、じゅう、ひゃく、せん、まん……じゅうまん」

 あずきは、やや青ざめた顔を上げました。

「……数えまちがっちゃったかも☆」

 青ざめたのは、すずも同じです。

「ご、50万って! 3人でもそんな額、はらえねえよ!」

「たしかにすごい家だけど、アタシたちには分不相応かもね。もっと手ごろな家をさがそうか」

 グレねえがあずきにそう言います。

 しかしサビオは、契約書をグレねえにしめして言いました。

「契約を破棄されるということでしょうか? こちらの契約書にありますように、1年以内の契約破棄は違約金として3か月分の家賃をいただきます。それでもよろしいですか?」

「50万の、3か月分は……」

 すずは指折り数えて計算します。

 チッチッチッチ、チーン!

「150万マドカ!?」

 さあ、大変です。

 あずきはあわてふためきます。

「どうしよう! ギョンギョンのライブに行けなくなっちゃうよ! 小豆アイスだって買えないかも!? そんなのヤダー!」

 ちなみにギョンギョンとは、あずきの大好きなアイドル歌手のことです。

 すずも同じくらいあわてて言います。

「そ、そんな家賃、ボクシングの大会で優勝してもはらえねえぞ! い、いや、10連覇くらいすればはらえるかも!? うん、きっといける! よし、今からトレーニングするしかない!」

すずのまたたびデイズ はちゃめちゃパティシエしゅぎょう

 あわあわするふたりをしり目に、グレねえは、ため息をひとつついて口を開きました。

「アンタたち、落ちつきな。――こうなりゃ仕方ない。どっちにしたってお金はかかる。だったら、はらくくってここに住むよ」

「ええ!?」

 すずとあずきは、同時にさけびました。

「せっかくルームシェアするために出てきたんだからね。50万マドカの家賃ってのは、たしかに高い。だけど3人の力を合わせてバイトでもすりゃあ、なんとかなる」

 サビオはグレねえのことばをきくと、ほほ笑みました。

「ワタクシもそれがよろしいかと思います」

 グレねえは、まだ心が決まっていないようすのすずとあずきに語りかけます。

「もう覚悟を決めな。どうせヒマなんだろう? バイトざんまいも案外楽しいかもしれないよ。人生長いんだ、きっといつかいい思い出になるさ」

 気風のいいグレねえを前に、すずもあずきも、思いきるしかありません。

「そ、そう、だよな……。やるしかない!」

「やるしか……ないのかあ~」

 ふたりとも、まだ顔が少しこわばっています。

 でも、考えてみてください。

 ひょっとしたら、これはすずが「やりたいこと」を見つけるための大きなチャンスになるかもしれませんよ。

 とにもかくにも、こうして3人の共同生活は波乱の幕開けとなったのでした。

すずのまたたびデイズ はちゃめちゃパティシエしゅぎょう

<続きは本書でお楽しみください>

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