「じつは防災グッズにもなる」と言いわけしながら500万円課金する登山オタクに妻は…/やましたひでことカレー沢薫のオタクの断捨離②

暮らし

更新日:2024/1/10

断捨離®とは手に入りそうなものを「断ち」、いらないものを「捨て」、物への執着から「離れる」こと。人は断捨離により心を解き放たれ、ごきげんな人生を送ることができるという。この理念の対極に存在するのがオタクだ。ものへのこだわりが人一倍強い彼らは「好きなものに囲まれた人生は最高」であることを実感している。だが実際に取材を行ったところ「本当はキレイな部屋で暮らしたい」「憧れのインテリアにして人を呼びたい」といった一般人としての願望に葛藤するオタクが多く見られた。『オタクの断捨離』では、断捨離の提唱者であるやましたひでこ氏と漫画家のカレー沢薫氏が、愛すべきオタクたちにとって快適な"断捨離の考え方"を模索していく。

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第2回「家一軒分の課金をした登山オタク」

やましたひでことカレー沢薫のオタクの断捨離

人はなぜ山に登るのか。その昔、世界最高峰の山エベレストの登頂に挑戦したイギリスの登山家ジョージ・マロリーは、「なぜエベレストに登るのか」という問いに「そこにエベレストがあるから」と答えたそうだ。きっと登山家にとって山登りは、言葉にならないほど魅力的なものなのだろう。

某メディアの元役員である南氏は、現役時代の激務から離れたいま、登山にはまっている。当時の社長から「これから“高み”を目指してくれ」と言われたのがきっかけだった。「出世の高みのことを言われたのだと思うのだけど、山の高みを目指し始めちゃって」と笑う南氏だったが…。

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「まずは“日本一の高み”を目指そう」ということで、初めて登った山は富士山。運悪く暴風などに見舞われたものの、3度目でやっと登頂できた。
南さんは山に登るたび「今日も登ってよかった」としあわせを感じるのだという。
朝早く出発し、まだ誰もいない山頂から“自分だけの絶景”を贅沢に眺める時。1人でテントを立てるのに苦労していたら、初対面の若者たちが山仲間として助けてくれた時。そして、登頂した嬉しさのあまり「昌子、いつもありがとう」と普段はなかなか言えない妻への感謝の気持ちを口にした時…。山登りで受ける恩恵を全部挙げたら、両手に収まらないのだとか。こんなに素晴らしい趣味が他にあるだろうか。

しかし、である。登山に必要なグッズは、1つ1つが非常に「お高い」のだ。気温がグンと下がる山頂で着るダウンは軽ければ軽いほど荷物の負担が減るため、約150gというレモン1個分くらいの重さしかない超軽量ダウンを買えば、1着約5万円。登りながら汗をかいても即乾いて体温を奪うのを防いでくれる超速乾インナーは、1枚約5000円もする。「これだけの恩恵を受けられるのだから、高くてもいいでしょ?」と登山メーカーが意地悪を言っているわけでは決してない。命を守るために上質なものを買うには、お金が必要なのである。中には家一軒買えるような大金を注ぎ込む人もいるという。

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溢れる登山ウェア。全て高級品だが、素人の目には区別がつかない。

「現役時代とは違って収入も減っているのだし、何かを買うにも限度をもうけないと。いままでどれだけ使ったか不明ですが、今後使う費用は500万円と決めましたので、それ以上使わなければいいです。本当は350万円くらいにして欲しかったけど、言い出したら絶対聞かないから…」

これは、妻・昌子さんの言い分である。それはそうだ。夫がダウン1着に5万円支払うのを、隣でニコニコと眺めているだけの妻はそうそういないだろう。しかし、限度と言っても500万円。それなりにいろいろ買える額である。家一軒とは言わないが、小さな別荘くらいは買える額ではないだろうか。“オタクの課金”に限度をもうける行為自体は容赦ないが、500万円という幅を持たせた金額に、夫への愛情を感じずにはいられない。

ちなみに南氏は、昌子さんを登山仲間に引き込もうと、長野県にある有名なヒュッテ(山小屋)に連れていったこともあった。しかし妻は無駄なことをしない主義のため、ただお茶を楽しんだだけ。作戦はまったくの失敗に終わったようだ。

南さんはいま、全国100の山が選定された「日本百名山」を全クリアすることを目指し、月に2回は百名山を巡っているらしい。そのほとんどは気ままなソロ登山で、さすがに危険が伴うため、登山地図アプリ「YAMAP」で登山開始と下山後、昌子さんに通知がいくように設定されている。南氏の大切な命は、ちょっとお高めの登山グッズと、昌子さんの深い愛情にしっかりと支えられている。

やましたひでことカレー沢薫のオタクの断捨離
山を踏破するたびに「山バッジ」も増え続ける!

<なんだかんだでオタクぶりを受け入れている by やましたひでこ
なんであれ、趣味にハマるということは、それにまつわるものが集まるのは仕方のないこと。
好きなものを、集めたくなるのも、増えていくのも当たり前。
そして、それに伴って空間が塞がれていくのもしょうがないこと。
登山グッズで部屋の一角が、押入れが埋め尽くされるのも、ひと部屋が潰れてしまうのも自然の成行き。
なぜなら、それがハマるということであり、オタクというものだから。
でも、登山オタクは、「山が危険だ」ということを誰よりも知っています。
ですから、自らの命と同じくらい登山グッズを丁寧に扱い大切にしているはず。
つまり、道具用具は、「使用後はキレイに手入れされ、保管はきちんと分類整理され、準備時にはさっと取出し可能な状態にされている」。
もしも、そうでなければ、登山の醍醐味を語る資格はないですよね。
それにしても、ご家族が、ご主人の登山オタクぶりをなんだかんだと文句をつけながらも受け入れているからこそ、
空間に対する登山グッズの総量規制<=ひと部屋分まで>
お金に対する登山グッズの総量規制<=500万円分まで>
という、とても甘い制限ですんでいるようです。

オタク本人が愛してやまない“オタク活動”が、同居する人や家族にも受け入れられるとは限らない。ところが南氏の場合は、空間やお金に規制をかけられているものの、“オタク活動”自体は受け入れられているようだ。

いつ出番が来てもいいように常に磨き上げられ、険しい登山旅で相棒となってきた道具たちは、百名山の全てを登りきった時、南氏にとって勲章のような存在になるのだろう。もしかしたら、それは妻の昌子さんにとっても、夫の命を守ってくれた愛おしい存在に変わるかもしれない。

取材・文=吉田あき

<第3回に続く>

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