読みたガールReview　前林里佳子

「夢から覚めても、夢の中での感情がまだ残っている」。読み終えた時、まさにそういう感覚だった。淡いピンクとグレーの背表紙を閉じても、登場人物が過ごしてきた記憶、感じてきた痛みや優しさが自分の中に残って放れない。私にとって芸能界は未知の世界なのに、そこに生きる青年二人の感情はとてつもなくリアルで、それぞれのキャラクターに著者の血が通っていることがひしひしと感じられた。恐縮ながら著者が卒業された大学に通っているため、舞台となった場所は馴染み深い所ばかり。その場所に行ったらきっと何度でも、彼らの息遣いを感じるのだろうなと思う。

感情移入をして苦しくなるのが苦手。そういう理由で恋愛小説は好んで読まないのですが、本屋で「男性に読んでほしい恋愛小説」というポップに惹かれてこの本を手に取りました。「こんな風に人を好きになって好かれる恋愛っていいな」とキュンキュンしたかと思えば、「あれ、実は悲しい話なの？！」と胸がチクチクしたり・・・。予想外の結末には涙を流し、ぐっと心を掴まれました。読み終わると切なさも残りつつ、温かいものが全身を流れるような幸せな気持ちになります。大切な人のことをもっと愛おしく思えるような、そんな恋愛小説だと思います。