【第12回】ちゃんもも◎『刺激を求める脳』/幸正#5

文芸・カルチャー

2018/9/5

 別れを決心してから約一年が過ぎ、僕も劇団も大きく成長した。

 僕以外の俳優たちも躍進を続け、数年前に僕が口にした夢物語も現実になりつつあった。それに伴い、僕自身の時間も無くなっていき、真理子の下を離れた後の新居も決められぬままズルズルと時間だけが過ぎていたが、海外や地方ロケ、劇団の地方公演などで真理子と過ごす時間はほぼなくなっていた。その合間を縫うようにして着々と準備を整えていった。

 そして別れの日、仕事で行った海外から帰国した帰り道、真理子に「別れよう」の四文字だけのショートメールを送り、僕は真理子のマンションではなく、ようやく契約に到った自分のマンションに向かった。

 メールを送ってからしばらくの間、定期的に僕の携帯電話のタッチパネルは「真理子」という文字にジャックされたが、二、三日でそれもあっけなく止んだ。各マスコミに僕と真理子の破局報道が出たからだ。

 これで大人しくなってくれるだろうか。僕には懸念があった。同時に、それに対する警戒も準備もすでにしていたつもりだった。

 僕は知っているよ、真理子。

 君が僕たちの交際をリークしたことを。

 どうしてかって?

 君が抱かれたオヤジ共に教えてもらったんだよ。

 だから僕も君の知恵を借りたんだ。

 僕は悪くないだろう?

 君だってそうしたんだから。

 真理子、僕は知っているよ。

 まだ少女だった頃の君が保護観察処分を下されていたってこと、そして君がこれから取るであろう行動もね。

『これから会いに行くね』とだけ書かれた真理子からのメールに対し、返信フォームにそう打ち込んで、送信はせずに、そのままメールごと消去した。

 それからは一言でも僕のコメントを取ろうと押し寄せてくる報道陣がしつこいのを除けば、生活は快適そのものだった。

 足掛け一年かけて日本全国を回った劇団の公演も次が最終公演。僕のすべてを芝居にぶつけるつもりだ。千秋楽となる東京公演は、劇団のデビューを飾った本拠地の初美座。

 今までにない僕を観てもらうつもりだ。生まれ変わった僕を。

写真モデル=シイナナルミ
撮影=飯岡拓也
スタイリング=TENTEN