藤本さきこの本喰族!! 瞬間瞬間に何かがジワッと流れ込んでくる『冬のUFO・夏の怪獣 』クリハラタカシ /連載第7回

文芸・カルチャー

2019/8/25

 私にとって本は、食べて吸収し細胞にするもの。

 食べることと同じくらいを作っていく。

 食物が肉体のエネルギーを作るなら、書物は魂のエネルギーをつくる。

 ひとつだけ違うことは、魂には「お腹いっぱい」という感覚がないこと。

 お腹いっぱいにするために読むのではないのだ。

 この連載「本喰族」では、読んだ本の中から頭に残っている「言葉」から次の本をリレー形式で検索し、魂がピンときた本をどんどん喰っていきたいと思います♡

『冬のUFO・夏の怪獣』クリハラタカシ

 前回のキーワード「UFO」で検索し発見したこのマンガの本。

 先に!先に! とページをどんどんめくりたくなるような、気持ちがはやるものがマンガだと思っていた。

 このマンガは、そうではない。

 なんていうか「静止」している。

 全体的にスピードが遅い。

 ゆるい。

 でも、日常の「瞬間」を丁寧に見つめたというより、鋭い感性の人が言葉にならない感覚の奥深いものをじっくりじっくり形にしていった、という感じが近い。

 最初、私のマンガの価値観でペラペラと読んでしまい、あっという間に読み終わってしまった。何のストーリー展開もないまま、何にも後に残らない感じがして、「なんだこれは!?」と思った。

 けれど、徐々にジワジワと効いてきた。

 この繊細で絶妙な「瞬間」が頭から離れない。

「とっても幸せ!」「嬉しい!」という瞬間でもなく、かといって「切ない…」という瞬間でもなく。「あるある~」という共感の瞬間でもなく。

 これはなんだろう。

 不思議な感覚だった。

 あとがきに、こう書いてあった。

「ユートピアについて考えると、どうしても個人の瞬間の中にしか存在しないのではないかという結論に至ってしまいます。だからそんなプチプチしたものを集めてみたいなと考えました」

 なるほど。

 この不思議な「瞬間」は、ユートピアに触れる瞬間を集めたものだったのか。

 ゆるいのに、瞬間の切り取り方が鋭くて、何度も本を開いてしまう。

 1ページに何分も何十分もかけて、その「瞬間」に入り込みたくなる。

「行間を読む」という言葉があるけれど、この本は「コマ間を読む」マンガだ。

 むしろ、「コマ間」にしか、著者が書きたいことが書かれてないのかもしれない。

 絵とセリフが書かれてあるコマの隙間の、何も書かれてない部分から、一瞬、私の中にジワッと流れ込んでくるものがある。

 ユートピアとは、はっきりとした言葉も、色も、形もないものなのだろうな。

 キーワードの「UFO」で検索して見つけた本だったが、肝心の「UFO」が出てくるのは、「冬のUFO」という短編マンガだけだった。一番、意味がわからない話だった。

 けれど、UFOの船底に「UFO」って字が書いてあるのを見て、「可笑しいね」って笑うシーンや、それを見た子どもが「今、なんで笑ったの?」「ねぇ、なんで笑ったの?」としつこく聞くシーンで、その答えに困るパパ、それに構わず宇宙人に手を振るママ…。

 それぞれの「瞬間」から、ジワッと何かが流れ込んでくる。

 嵐の日に「水平線がギザギザしている!」ということを発見して興奮している女の子もいた。はっきりと「この本はこういう本です」と言えないのだけど、その説明のしにくさが、この本の良さだと思った。

 次は「水平線」で美味しそうな本を探します。

文=藤本さきこ

第8回に続く