太宰治が芥川龍之介を好きすぎてやった恥ずかしいこと/『文豪どうかしてる逸話集』①

文芸・カルチャー

公開日:2019/11/9

太宰治は、借金のかたに友人を人質に取られた経験をもとに『走れメロス』を書いたが、実際は全然走っていないどころか、友人を見捨てた

 太宰が執筆のために、熱海の旅館にこもっていた時のこと。

 遊びすぎて宿泊費が払えなくなった太宰は、奥さんに「金を用意してくれ」と連絡する。
 頼まれた奥さんは、太宰の親友でもある作家の檀一雄に、熱海にいる太宰に持っていってくれるようにとお金を託します。

 熱海に到着した檀一雄に、太宰が一言。
「……飲みに行こう」
 奥さんに持たされたお金をすべて飲み明かして使ってしまうふたり。旅館の宿代はまだ払えていない。

太宰「じゃあ今度は菊池寛に金を借りてくる」
番頭「そのまま逃げる気じゃ?」
太宰「じゃあ人質を置いていく」
檀 「……え?」

 檀一雄を人質に残して、ひとり東京に戻る太宰。
 太宰はこの時の経験をもとに『走れメロス』を書いたのではなかろうか、とのちに檀一雄は述懐しているが、太宰はメロスが親友・セリヌンティウスのために走ったようには走らなかったし、なんなら熱海に戻らなかった。

 待てど暮らせど戻ってくる気配のない太宰に苛立ち、なんとか番頭を説き伏せて東京に戻った檀一雄。怒り心頭で太宰を探し回る。

 とうとう太宰を見つけ出した檀。そこで見たのは、井伏鱒二の家でのんびり将棋を指している太宰の姿。

「あんまりじゃないか!」と荒ぶる檀に、太宰は一言こう言い放ったのでした。

「待つ身が辛いかね、待たせる身が辛いかね」

(出典) 檀一雄『小説 太宰治

<第2回は宮沢賢治です!>