谷崎潤一郎は奥さんを譲渡する、しないで友人ともめる/『文豪どうかしてる逸話集』⑤

文芸・カルチャー

公開日:2019/11/13

谷崎潤一郎、佐藤春夫に奥さんを譲渡するも、「やっぱり返して」と言い出す。(「小田原事件」)

 貞淑で従順な奥さん・千代との結婚生活に、どこか物足りなさを感じていた谷崎。

 そんな折、奥さん千代の妹・せい子の面倒を谷崎家で見ることになる。せい子は谷崎の奥さんと正反対の性格で、奔放でわがまま、谷崎にも平気で口答えするような女で、谷崎はせい子のことを「野獣のような女」と言いながらも、「でもなんか、好きかも……」とすっかりM心を刺激され、恋に落ちてしまいます。ちなみに当時谷崎35歳で、せい子15歳……。

 谷崎が自分の妹を想っていることを知って塞ぎ込む奥さん・千代。そんな千代を不憫に思ったのが谷崎の友人・佐藤春夫。千代への憐憫はやがて好意に変わり、ふたりは恋仲になります。

 佐藤と千代の関係を知った谷崎は「俺、せい子のこと好きだし、ちょうどいいや」と、佐藤に千代を譲ることを約束し、意気揚々とせい子に求婚したところ、「え? おじさんなに言ってんの?」とあっさりフラれる。

 その後、「せい子にフラれたから、やっぱ奥さん返して」と言い出した谷崎に佐藤春夫が激怒し、絶縁状態に。これが世に言う「小田原事件」の全貌です。

(出典) 瀬戸内寂聴『つれなかりせばなかなかに』

「小田原事件」から9年後に勃発! 谷崎潤一郎、「細君譲渡事件」!

「小田原事件」で絶縁状態になった谷崎と佐藤だったが、のちに和解することになり、谷崎は千代と離婚して20歳年下の2人目の奥さんをもらい、佐藤はとうとう千代を妻に迎え入れることに。

 3人が連名で出した「私たち3人は相談して、千代は谷崎と離婚し佐藤春夫と再婚することにしました。でも、谷崎と佐藤はこれからも仲良しでやっていくんで、みんなその辺よろしく。いずれ仲介人を立てて正式発表するけど、とりあえず先に言っときます」みたいな感じの声明文は、新聞トップを飾り、「細君譲渡事件」と呼ばれて大いに世間を騒がせた。

 9年間の想いを成就させて死ぬまで千代と寄り添った佐藤はいいとして、このあと2番目の奥さんにすぐ飽きて不倫に走る谷崎、おまえ……。

(出典) 瀬戸内寂聴『つれなかりせばなかなかに』