恋するドMな変態男「大好きなきみに踏まれたい」/『ざんねんな万葉集』①

文芸・カルチャー

2020/1/25

日本人は1,300年前からダメダメで美しかった…!
新元号「令和」の出典となったことであらためて注目を集めた万葉集。その収録歌数は、日本最大の4,516首!
中にはイマイチな歌もあって、カスな奴らが身勝手なイタい歌を詠んでいたりするのです。そんな万葉集から特にざんねんな51首を選抜。愛すべきダメ人間たちの歌に、思わずクスッと笑ってしまうはず!

『ざんねんな万葉集』(岡本梨奈:著、雪路凹子:イラスト/飛鳥新社)

大好きな きみに 踏まれたい

二六九三 作者未詳(男)

原文

如是許
恋乍不有者
朝尓日尓
妹之将レ履
地尓有申尾

和歌

かくばかり
恋(こ)ひつつあらずは
朝に日(け)に
妹(いも)が踏むらむ
土にあらましを

現代訳

こんなにも (無駄な)恋をし続けていないで 
朝も昼も 愛しいあの娘(こ)が踏んでいる 土になれたらよかったのになあ

解説

 この歌は、作者未詳の「相聞」で、季語がない歌を集めた巻(巻第十一)の中の一首です。よって、詳しい背景などは不明なのですが、歌から推測するに――とある男性が、ある娘さんに恋しました。その娘こに自分の気持ちを伝えたのかどうかも、この歌からだけではわかりませんが「うまくいくような感じではない」のは確かです。

 そんなある日、きっとその気持ちがあらぬ方向へプッツンと切れてしまいました。「踏まれるのでもいいから、あの娘に触れたい」という心の叫びの歌です。なんともドM具合がざんねんですが、踏まれることですら幸せと感じるなら、恋する気持ちは嘘ではないようですね。

 ちなみに、私の学生時代のお調子者の知人に「好きな人の自転車のサドルになりたい」と豪語(ただの持ちネタ的な完全ギャグですが)していたヘンタイ男がいたな、と思い出す歌です。

用語

かくばかり:「こんなにも・これほど」(指示副詞「かく」〈こう・こんな・このように〉+副助詞「ばかり」〈ぐらい・ほど〉)。

つつ:接続助詞「~しては・し続けて」。

ずは:《上代語》「~ないで・~せずに」。

:男性から親しい女性(妻・恋人・姉妹など)を呼ぶ語。

らむ:現在推量の助動詞。

あらまし:事実に反して「仮にこうならよかったなあ」と希望する気持ち。

:間投助詞。文末に用いると「感動・詠嘆」を表す。

<第2回に続く>