「口説いた女がめんどくさい」大伴家持はモテモテだった!?/『ざんねんな万葉集』⑦

文芸・カルチャー

2020/1/31

日本人は1,300年前からダメダメで美しかった…!
新元号「令和」の出典となったことであらためて注目を集めた万葉集。その収録歌数は、日本最大の4,516首!
中にはイマイチな歌もあって、カスな奴らが身勝手なイタい歌を詠んでいたりするのです。そんな万葉集から特にざんねんな51首を選抜。愛すべきダメ人間たちの歌に、思わずクスッと笑ってしまうはず!

『ざんねんな万葉集』(岡本梨奈:著、雪路凹子:イラスト/飛鳥新社)

口説いた女が めんどくさい

 きみ、一つだけ忠告してやるよ。あんまり気軽に女を口説くもんじゃないぜ。

 いいなって思う娘がいたとするじゃん。口説いて、まぁ、男女の仲になるよな。そのときは、燃え上がってるからいいよ。

 問題はその後だ。だいたい、めんどくさくなる。

 でもさ、こっちが冷めてるからって、なかなか言えないだろ? 顔にも出せないだろ?

 だんだん歌を返すのもおっくうになってきた。でも、向こうからはどんどん来る。気が重いったらありゃしないぜ。

 結婚できないのに、なんで口説いちゃったんだろう。

返歌してないのに歌が来る…
モテる男はつらいよ

六一二 大伴家持

原文

中〻者
黙毛有益乎
何為跡香
相見始兼 不遂尓

和歌

なかなかに
黙(もだ)もあらましを
なにすとか
相(あひ)見そめけむ 遂(と)げざらまくに

現代訳

いっそ 黙っていればよかったなあ どういう理由で 逢いはじめたのだろうか 最後まで愛しぬくなんてできないであろうに

解説

『万葉集』の編者の一人である大伴家持は、とにかくモテモテだったようで、いろいろな女性と関係を持っています。その一人に、笠郎女(かさのいらつめ)という女性がいました(家持と関係を持っていたこと以外は伝未詳)。

 家持のことが大好きだったのでしょう。二十四首の和歌を家持に贈っています。二十四という数は、きちんとお互いにやり取りしているならば、別に多いわけではありません。ですが、ざんねんなことに、ほぼ一方的に送り付けているのです。家持はたった二首しか返歌をしていません(かなりのマナー違反)。そのうちの一首がこの歌です。

 この歌からわかるように、最初に声をかけたのは家持なのです。自分から口説いていながら、もう熱が冷めてしまい、声をかけたことを後悔しているのです。モテたのかもしれませんが、けっこうヒドい男かと。

 ですが、返歌がないことから、家持の気持ちを察して身を引いてもよいのに、ずっと二十四首も送り続けた笠女郎は、かなり粘着質なざんねんな女性にも思われます。……どっちもどっちですね。

用語

なかなかに:いっそ。

黙(もだ):黙っていること。

あらまし:事実に反して「仮にこうならよかったなあ」と希望する気持ち。

:間投助詞。文末に用いると「感動・詠嘆」を表す。

V+そむ:Vしはじめる。

けむ:過去原因推量の助動詞「けむ」の連体形。

ざら:打消の助動詞「ず」の未然形。

まく:《上代語》未来推量を表す。

:《上代語》間投助詞。感動・強調を表す。

<第8回に続く>