編集者・佐渡島庸平さん「業界を変える使命より働くことを楽しみたい」【後編】/あの人の仕事論⑥

ビジネス

公開日:2020/7/8

自分らしく働き、時代の第一線を行くトップランナーたち。彼らはどんな風にして今のキャリアを手にしたか。ときには挫折も経験しながら、紆余曲折を経て現在のポジションを獲得した彼らに、“仕事とは何か?”を聞く『Indeed特別編集 あの人の仕事論』(KADOKAWA)から、「あの人」の多様な働き方や生き方、仕事に対する考えを紹介。

『Indeed特別編集 あの人の仕事論』(KADOKAWA)

楽しむ工夫を試行錯誤

株式会社コルク 代表取締役
佐渡島庸平さん(40歳 東京都)

 講談社にて『ドラゴン桜』『宇宙兄弟』など、編集者として数々の大ヒットマンガを手がけた後に、クリエイターのエージェント会社「コルク」を立ち上げた佐渡島庸平さん。「本当にやりたいこと」を見つけるまでの、その道程とは?

前編はこちら

ただ「消費する側」で生きるより「つくる側」でいる方が面白い

「これまでの仕事って、誰かの面倒とか苦労を肩代わりするというような、『負(マイナス)』を解決するという要素が強かったんです。でも今はそうしたものは、ネット上の知識や技術、AIやロボットなどで解決し『ゼロ』にできる。そういう時代に求められる仕事って『プラス』にすることで、それってつまり『楽しませる』ことだと思います。『そんな楽しみ方もあるんだ!』という新しい提案が、どれだけできるか。自分自身が楽しむ工夫ができる人でないと、そういう発想は出てこないんですよ」

 例えば、クリスマスに家でローストビーフを食べるとする。それなりにおいしいものはどこでも手軽に買うことはできるが、佐渡島さんは自分でつくることを選ぶ。どのくらいサシの入った肉がこの料理に向いているのか、調理器具や調理方法によって味にどんな違いが出るのか、どのくらいの火の入り方がおいしいのか、そうするための時間はどのくらいか――「つくる側」の人は、さまざまに試行錯誤しながら完成させるまで、その過程を何度も楽しむことができる。

「もちろん買ったっていいんです。ただ口を開けて待つだけで楽しさを享受する、完全な『消費する側』で生きるのも。でも僕は『つくる側』の方がずっと面白い。実際、文化が発達した国には『つくる側』を楽しむ人が多いんですよ。仕事も同じで、楽しむ工夫をし、楽しいと思える仕事を自分でつくった方が断然面白い。逆にそういう形でやっていかないと、今後の時代は仕事にあぶれたり、たとえ仕事があったとしても楽しくは働けないと思いますね」

業界を変える使命より働くことを楽しみたい

 日本には珍しい「クリエイターのエージェント」――活動の中心をネットに置いた会社は、まさにそうしてつくられた新たな仕事と言えるかもしれない。

「日本のマンガアプリは既存作品を並べる書店と同じで、クリエイターにお金が落ちる仕組みがまだしっかりとつくられていないんですよね。そういう中で生き残る方法として考えているのが、クリエイターのファンコミュニティをつくることかなと。中国、アメリカ、韓国などでは、そういうプラットフォームで作家が収入を得るシステムが確立しています。日本はいまだに既存のメディアが強いけれど、それも時間の問題だと思う。今、僕は新人マンガ家ばかりと仕事しているんですが、作品は『縦スクロール・オールカラー』というネットマンガの標準でつくっています。この形だとコストがかかるから紙媒体にはまずならないので、回収はデジタルのみ。そういうコンテンツをためて、プラットフォームができたら一気にいく。作家たちと一緒に、そこに全賭けしてます」

「最近は(出版業でなく)IT企業と思い始めている」と佐渡島さん。起業当時はネットに軸足を置いた戦略で「出版業界を変えたい」という思いもあったが、最近は少し変わってきているようだ。

「そういう使命感みたいなものって、自己陶酔とか偽善っぽいなと。それよりも作家を発掘して育てることを楽しみ、それを見た社員たちが手伝いたくなるという、シンプルなところに立ち返った方がいいなと。それにネットなら世界を市場にすることができるから、日本の出版業界を変える必要なんてない。ただただ実力勝負で、売れるものをつくることに集中するだけ。実際にすごく面白いものが集まっていますしね」

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経営者 編集者

Profile
1979年生まれ。東京大学文学部卒。講談社を経て、2012年クリエイターのエージェント会社、株式会社コルクを創業。三田紀房、安野モヨコ、小山宙哉ら著名作家陣とエージェント契約を結び、作品編集、著作権管理、ファンコミュニティ形成・運営などを行う。従来の出版流通の形の先にあるインターネット時代のエンターテインメントのモデル構築を目指している

佐渡島庸平さんの転身ヒストリー
2002年 東京大学文学部卒業。新卒で講談社に入社
    週刊モーニング編集部にて、『バガボンド』を担当
    その後『ドラゴン桜』『働きマン』なども担当
2007年 12月『宇宙兄弟』連載開始。2012年にTVアニメ化、実写映画化を実現させ、2019年末には2,400万部に到達するメガヒット作品に育て上げる
2012年 講談社を退社し、株式会社コルクを設立

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