男子高校生2人が田舎ならではの「映え」を満喫する! 景色も友情もフォトジェニックな青春コメディー

マンガ

公開日:2020/9/18

田中と鈴木
『田中と鈴木』(太川善之/小学館)

 次にくるマンガの最前線を紹介するこの「マンガPOP横丁」は、レビューに加えて手書きPOPでマンガ作品をさらにぐっと皆さんへオススメするコーナー。筆者の中では、「映(ば)え」を意識したコーナーだと自負している。映えは、SNSで投稿したものをたくさんの人に注目してもらいたい(=バズり)手法としても頻繁に使われている言葉。今回は、作品の舞台が自然と緑で「映える」、福岡の片田舎で暮らす2人の男子高校生が主人公の、陽気な日常と青春の物語――太川善之先生の『田中と鈴木』(小学館)をご紹介!

田舎にはSNS映えするものがない? …そんなことはありません!

 主人公の1人・田中くんは、人口約2000人で若者も少ない福岡県のある小さな町で生まれ育った高校1年生。まったりソシャゲをしながら毎日を過ごしている。そんな彼には、仲が良い幼なじみの鈴木くんがいる。地元では有名な不良“だった”田中くんとは、中学時代に服装をお揃いにする感覚で不良仲間としてつるんでみたり…とどんな時も一緒に過ごす日々。今日も鈴木くんは田中くんの家を訪ねて連れ出し、いろいろな遊びや経験をする。SNSのトップ画を撮りに行ったり、タピオカに熱くなったり、市民プールでバイトしたりと、田舎町ならではのフォトジェニックな「映え」を見つけて楽しむ毎日が描かれた青春コメディーだ。

 読んでいると、自分も子どものころには毎日同じ友達と遊んでいても全然飽きなかったし楽しかったな、という感覚を思い出す。携帯電話はなく、SNSもネットもなかったころ、毎週土曜日には決まって仲の良い友だちの家に電話をかけて遊びの約束をして、その友だちの家へ遊びに行ってTVゲームをしたり、外に出かけては小さな川や池でザリガニを釣ったり、駄菓子屋に行ったりして過ごしていた――すごく楽しかった!

 当時は「映える」という言葉も知らなかったが、きっとあのころの光景も「映え」だったのかもしれない。田中くんと鈴木くんが過ごしている環境や時代とは違うが、自分が過ごした過去の懐かしさや楽しさが自然と蘇り、自分の思い出とリンクさせながら読んでいる自分がいるのだ。

 さて、高校生になった田中くんの今の雰囲気からは想像がつきにくいけれども、かつて中学生だった時には不良で番をはっていた彼。もともと出不精の気があるようで、鈴木くんの遊びの誘いには毎回興味なさそうな表情を見せる。しかし、結局は鈴木くんに連れ出されて楽しんでいるのが現状だ。超ツンデレである。もちろんその性格を鈴木くんも知っているから誘うのだろう。なんだか長く付き合っている彼氏彼女かというくらいの仲の良いやりとりで、実に微笑ましい。ひとつのことで勝負しあったあとにお互いを労う姿や、田中くんからの思わぬドッキリに対して鈴木くんが見せる照れ顔など、2人の「イチャ映え」にもキュンとくる。

 田中くんと鈴木くんには共通点がある。それは、2人とも都会に憧れているということだ。特に鈴木くんは都会の流行に敏感らしく、都会のパリピ女子がSNSに投稿していそうなものを、田舎で自撮りをしながら楽しんだり、とSNSでの「映え」をいつも求めている。青春コメディーで描かれる、田舎町ならではの文化、住人たちとの触れ合い、中学の不良時代の後輩や、その後輩を脅かす女ヤンキー…どれも映える注目ポイントなので、これから本作を読む方はこの甘酸っぱさも楽しみにしていただきたい。

田中と鈴木

 大自然に囲まれたフォトジェニックな景色を背景に、深い友情が「映え」る2人の男子高校生の物語。都会の鮮やかさにも引けを取らない彼らなりのキラキラバズりデイズにあなたも浸ってみてはいかがだろうか。

文・手書きPOP=はりまりょう