対話なきコミュニケーションがもたらす結末とは――『悪寒』/佐藤日向の#砂糖図書館③

アニメ

公開日:2020/10/31

声優としてTVアニメ『ラブライブ!サンシャイン!!』『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』などに出演、さらに映像や舞台でも活躍を繰り広げる佐藤日向さん。お芝居や歌の表現とストイックに向き合う彼女を支えているのは、たくさんの本やマンガから受け取ってきた言葉の力。「佐藤日向の#砂糖図書館」が、新たな本との出会いをお届けします。

佐藤日向

みなさんは普段本を選ぶ時、何を基準にしているだろうか。

 

私の場合、好きな作家さんの作品をゆっくり読破しつつ、
新しい作家さんの作品を読む時は、タイトルと直感で決めることが多い。

そして帯の文字にときめくことも多々ある。

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今回紹介する『悪寒』は、直感で読んでみたいと思い、帯を見て即購入を決めた作品だ。

私が惹かれた一文にはこう書かれていた。

「憎んでいた上司が殺された。犯人は自分の妻だった。」

そう、この物語はこの絶望的な状況から始まる。

 

『悪寒』の物語は、とある単身赴任中の男性が妻から1通のメールをもらったことがきっかけで動き出す。

その後、彼の元へ警察から連絡が入り、妻が彼の上司を殺害したことを知る。

何が真実か分からない第一章はまさに”悪寒”という言葉がぴったりで、
文章の至る部分に常にうっすらと寒気が漂っていて、ページをめくる手がとても重く感じた。

中でも印象的だったのは、この男性を取り巻く女性達だ。

認知症の母、思春期真っ只中の娘、誰もが認める魅力的で美人な妻、美人で雰囲気が似ている妻の妹。

この女性達が一癖も二癖もあるが故に、第二章では事件は更に拗れていく。

 

作中に「中年男の鈍感さは、それだけで犯罪。」という娘の言葉があるが、
私はこの作品を読み終えた後、女性特有のなんとなく場の空気を察してしまう聡い部分は、時に損をしてしまうと感じた。

なぜならそれは、意見の食い違いを生んでしまうからだ。

実際この作中でもお互いがコミュニケーションを交わさず行動することによって、妹の姉に対するコンプレックスが生まれていた。

コンプレックスというのは本当に恐ろしいもので、周りが客観的にみると”え?そんなことで?”と思ってしまうことでも、本人にとっては一大事である事が多い。

 

私自身は中学生の頃、自分の声がコンプレックスだった。

私の声は普通の女の子と比べて低い方だ。

だから中学生の頃、アイドル活動をしていた時、周りと比べて可愛い声で歌えない、と悩んだことがあったが、今は声優という職業に出会えて、考え方を180度変えることが出来た。

 

コンプレックスというのは、きっとどんな小さな出来事でも、きっかけひとつで見え方が変わるのだと思う。

そしてそれを武器に出来るかどうかも自分次第だと私は思う。

 

しかし、この『悪寒』では、その”小さなきっかけ”が起こらず、永遠に負のループの中にいるような感覚に陥る。

 

この作品を読んで私は、ひとつの情報を鵜呑みにすることは危険だと感じた。

たとえSNS上でコミュニケーションがとれていたとしても、それは対面ではないから表情が見えず、嘘か本当かを見分けるのが難しい。

もちろん、便利なものは日常に取り入れるべきだと思う。

でも、人の本質を見極めるにはちゃんと目を見て会話をしなければならない。

外に出るのが難しくなってしまい、コミュニケーションが以前のように取るのは難しい昨今、
自分の発する言葉が誰かに影響を与えてしまうという責任感を常に持って行動するように心がけたい。そう改めて認識させてもらえた。

 

本作で一度”絶望”を擬似体験することで、きっと、これからの人との関わり方を見直すきっかけになるだろう。

寒さが本格的になる前に、本から寒さを感じてみるのはいかがだろうか。

 

さとう・ひなた
12月23日、新潟県生まれ。2010年12月、アイドルユニット「さくら学院」のメンバーとして、メジャーデビュー。2014年3月に卒業後、声優としての活動をスタート。TVアニメ『ラブライブ!サンシャイン!!』(鹿角理亞役)、『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』(星見純那役)のほか、映像、舞台でも活躍中。

公式Twitter:@satohina1223
公式Instagram:sato._.hinata
レギュラー配信番組『佐藤さん家の日向ちゃん』:https://ch.nicovideo.jp/createvoice