声で気付いた声/オズワルド伊藤の『一旦書かせて頂きます』⑥

小説・エッセイ

更新日:2021/2/26

オズワルド
オズワルド 畠中悠(はたなかゆう/左)伊藤俊介(いとうしゅんすけ/右)

 自分を卑下するようなことを言うつもりは毛頭ないが、限りなく冷静に、赤の他人を見るかの如く客観的に見て、僕自身には芸人として突出した才能はほぼないに等しいと言っていい。

 繰り返すが自分を卑下しているわけではない。
 むしろ才能だセンスだなんてのは容姿と一緒で、そのほとんどはそれぞれの両親のおかげであると思っている。

 もちろん才能のある人間を羨ましく感じることもあるが、だからといってそれは、自分の価値を下げたり周りと比べて劣っているということには繋がらないと自負している。あくまで、才能がない者としての生き方を再確認する為の作業なのである。
 しかしながら、そんな自分にも、明確に他者にも勝る才能がひとつだけあったことに、僕は数年前に気が付いた。

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 再確認の作業は、なにも芸人だけを対象としたものではない。
 僕が最初に見た才能のある人間は、なにを隠そう妹であった。

 僕をご存知の方は、必然的に僕の妹のことも知っていてくれている方がほとんどであろうが、一応説明させて頂きますと、我が家の末っ子は伊藤沙莉という名の天才女優なのである。

 彼女は物心ついた頃から芸能の世界に足を踏み入れ、芸歴だけで言えば僕より8年先輩にあたる。
 芸人で言えばスリムクラブさんと同期 であり、シャンプーで言えばアジエンス(花王)と同期の大先輩。僕はそんな彼女を小さな頃から見てきた。
 その上で、本当に才能のある人間と出会ったのは妹が一番初めであったと豪語出来る。

 そして、そんな妹がみるみる売れていくのを近くで見ていて気が付いたことがあるのだが、前述の通り、特別な才能など持ち合わせていないと思っていた自分には、妹と共通したある大きな武器があった。
 それこそが「声」である。

 自分で言うのもなんであるが、僕はとても特徴的な声をしている。
 とにかく良く通るのに加え、なんだかファニーな声である。
 これは今の僕の職業、お笑い芸人、漫才師、もっと細かく言えばツッコミを担う者としてはかなり大きな武器であると言える。

 ではなぜこれに関してのみ、突然ここまで強気に自信を持って言えるのか。
 それが長年近くで妹を見てきたことに繋がってくるように思える。

 正直な話、今でこそ妹の名前を出すことに何の抵抗もないが、一時期はなかなかの劣等感を抱いていた。
 職業としては別物ではあるが、人前に立つ仕事をしているという点では、どうしても意識せざるを得なかった。
 どこに行っても妹のことを聞かれるし、妹の出ている作品を見ること自体がしんどいと感じる時期が数年続いた。
 ただ、それでもやはり妹であるから、ある程度の活動には目を通すようにしていたのだが、見続けていくうちに、今までとは違う角度から妹を見るようになっていった。

 こいつの一番凄いところはなんだろう。

 ふと浮かんだ疑問の答えを知るべく、僕は実兄とは思えない程妹を観察した。その流れで、実兄とは思えない程奢ってもらい、実兄とは思えない程家に住ませてもらったりとかもしといた。
 何周も考えた結果、トータルで見た時に、こいつの一番の武器はやはり「声」であると確信した。
 確実に覚えてもらえるし、なによりもあんな訳のわからん声は誰とも被らない。
 誰から見てもわかることではあるが、何周も考えた結果、改めて素晴らしい声をしているなと感じたのである。

 そんな奇跡の声を持つ彼女に、ある日ぽつりと言われたことがある。

 お兄ちゃんて本当に良い声してるよね。

 恐らく、シンプルにフラットな状態でかけられた言葉であれば、今こんなにも自信を持てる程響くことはなかったのかもしれないが、一番近くにいた、一番長く見ていた、一番凄いと思う人間の一番の武器と全く同じ部分を誉められたのである。
 兄としてはなんて建前は置いといて、僕は恥ずかしながらそんな些細な誉め言葉を、今では芸人として生きる支柱のひとつとさせて頂いている。

 才能なんていうものは、結局のところ誰にでもあるものであるように思う。
 ただそれへの気付き方、見つけ方にかなりの個人差があるというだけではないだろうか。
 才能があると思える人間を、妬まず僻まず、最初は羨ましいという感情のみでも、じっと近くに張り付くことによって、自身の思わぬ発見に繋がる場合もあるのだから。

 一旦辞めさせて頂きます。

オズワルド 伊藤俊介(いとうしゅんすけ)
1989年生まれ。千葉県出身。2014年11月、畠中悠とオズワルドを結成。M-1グランプリ2019、2020、2021ファイナリスト。


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