芸能界の入り口/オズワルド伊藤の『一旦書かせて頂きます』⑩

小説・エッセイ

更新日:2021/4/1

オズワルド
オズワルド 畠中悠(はたなかゆう/左)伊藤俊介(いとうしゅんすけ/右)

 僕が現在、職業お笑い芸人である意識を保てている要素のひとつは、まだまだ「売れている」という事実が笑っちゃうくらい足りないから。
 今の僕は、M-1を獲ることが人生においての大半を占めているが、もちろん芸人として上限なく売れたい気持ちも持ち合わせている。
 ただ、なにをまだ売れてもいないのにそんなことを心配しているのだと鼻で笑われること必至であるが、売れることによっての弊害というものも確実に存在するのではないかと、売れることによって変わってしまうことも存在するのではないかと、まだまだスタートラインに位置する僕は、この爆裂獣道の道中に不安を馳せることがあるのだ。

 お笑い芸人という職業は、一般世間様から見た時、ある一定のラインを越えた段階で「芸能人」という大きな円の中に組み込まれることとなる。
 芸能人の中のお笑い芸人であることに変わりはないのだが、僕はこの、芸人としての円と芸能人としての円が重なり合った時、芸能人の円に飲み込まれてしまいたくないと思っている。
 これは、芸能人になりたくないと言っているわけではない。重なり合い、その上で職業お笑い芸人である意識を保ち続けたいと思っているのだ。

 なぜそんなことを考え始めたのか、それにはいくつか理由がある。
 例えばCMに出させて頂いたこと。
 先日、どういうミラクルか、三井住友カードのCMのお仕事をさせて頂いたのだが、正直芸人の現場とはアメリカと練馬区くらい、雰囲気から対応からなにもかも違った。どちらがいいという話ではないが、少なくともそこには、楽屋でゴシップを披露する方や、同じくだりを狂ったように繰り返したり、もらいタバコを目を閉じるくらい旨そうに吸う方もいなかった。

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 次にそれに伴う金銭感覚。
 前回の記事でも書いたが、1カ月の収入10万円の暮らしから、人間がこの国で生きる為のまともなお金を手にし、これからは普通に生きていたら手に入らないお金を頂く可能性があるしそのつもり。
 ここで怖いのは金銭感覚が壊れることだけではなく、むしろもっと恐ろしいことは、仕事を選ぶ上での一番の基準になってしまわないかということ。もちろん必要なことではあるが、面白そうとかそんな感覚だけで仕事を選ぶことが皆無になることはとても恐ろしいことである。これに関しては、芸能人でも芸人でもなくただのビジネスパーソンになりかねないのだから。

 そして、最近になって最も如実に職業お笑い芸人である意識を保つことへの妨げになり得ると感じた出来事がある。

 それはネットニュースになること。

 これまでにネットニュースになったことは何度かあるが、それはM-1の決勝に残ったり、CMに出ることが決まったりと明るいものが主である。
 その他あるのは、妹伊藤沙莉関連。というかこれが一番多かった。
 なかでも一緒に住んでいた時期、僕が食器を洗っていた際に妹のお気に入りの茶碗を割ったことがネットニュースになった時はさすがに震えたものである。まあそれでもそれは言うなれば妹ありきの記事であったし、僕が意識するようなことはひとつもなかった。

 ところがつい先日、今までとは違ったかたちでネットニュースになる出来事があった。
 言うまでもなく間違いなく絶対に僕が悪いのだが、大阪の番組で遅刻についてほんこんさんに怒られたことがネットニュースに上がっていたのである。
 正直前述の通り、ネットニュースに出る時は、めでたいことか、妹関連の愉快でしょうもない記事ばかりであった。

 僕は初めて、自分が確実に悪いにしても、自分のイメージが悪くなるような記事の載り方をしたのである。

 こちらの内容についてなにか文句があるわけではない。内容を大きくねじ曲げられたわけでもないし。
 僕が怖かったのは、この先、今回のように100%自分が悪い場合ではなくても、マイナスの要素全開の記事にされる可能性があるという点にリアルに気付いたことである。
 そう考えると、いつか自分が、言葉ひとつ行動ひとつに消極的になり、芸能人であり続ける為に、職業お笑い芸人である意識が薄れていってしまうのではないだろうか。別に破天荒を売りにしているわけではないが、思ったことを表現出来なくなること自体が、職業お笑い芸人であるという意識を刈り取っていってしまうような気がして、猛烈に恐ろしくなったのである。

 売れるということはほぼほぼイコールで芸能人になっていくことにも直結する。
 芸能界の荒波とやらを乗り越える権利を得た時、僕は死ぬまで自分が何者であるかを忘れずに生きていきたいのだ。

 一旦辞めさせて頂きます。

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オズワルド 伊藤俊介(いとうしゅんすけ)
1989年生まれ。千葉県出身。2014年11月、畠中悠とオズワルドを結成。M-1グランプリ2019、2020ファイナリスト。


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