これまでにない新しい何かを出す必要はなし。どんなことにも共通するアイデアを出すコツ/100案思考「書けない」「思いつかない」「通らない」がなくなる③

ビジネス

公開日:2021/5/22

100案思考「書けない」「思いつかない」「通らない」がなくなる』から厳選して全6回連載でお届けします。今回は第3回です。才能、センス、道具なんていらない。どんな場合でも、いいアイデアを考えてくる人には共通点があります。それは「とにかくたくさん数を出すこと」。1案しか持ってこない人のアイデアが優れていたことは、ただの一度もありません。ここでは“考え方”のヒントを教えます。

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100案思考 「書けない」「思いつかない」「通らない」がなくなる
『100案思考 「書けない」「思いつかない」「通らない」がなくなる』(橋口幸生/マガジンハウス)

100案思考 「書けない」「思いつかない」「通らない」がなくなる

「Apple」のスティーブ・ジョブズのような、アイデア・パーソンに憧れる人は多いと思います。「iPhoneのような、これまでにない新しいもの、オリジナリティのあるもの、誰も見たことのないようなものを思いつきたい!」そんなふうに考えてしまいがちですよね。

 しかし、こうした思い込みも、アイデアの出を悪くする原因です。そもそも「アイデアとは『これまでにない新しいなにか』である」という考えが間違っています。

 アイデアとはなにもないところからポッと出てくるような、抽象的なものではありません。実は、そこには極めて明確で具体的な定義があるのです。

 ここでアイデア本の古典『アイデアのつくり方』(CCCメディアハウス)の著者ジェームス・W・ヤングをはじめ、多くのプロが採用している定義を紹介しましょう。

 アイデアとは何か?

 それは、「既存の要素の組み合わせや、一部を変更したもの」です。

 そう、「新しさ」はいっさい必要ありません。

 身近にある優れた製品やサービスを分析すれば、すぐにわかります。たとえば、先に例として挙げたiPhoneを見てみましょう。「電話」や「音楽プレイヤー」、「カメラ」と「インターネット」などを組み合わせたものであることがわかります。世界を一変させた画期的なアイテムですが、実は、ゼロから生まれた要素はまったくありません。

 本書を電子書籍で読んでいる人もいると思います。これも本を「紙」から「スクリーン」に置き換えただけで、新しい要素は1つもありません。端末に備えられている「しおり機能」や「ハイライト機能」も、紙の本でできることの模倣です。

 他の製品やサービスはどうでしょうか。

「ルンバ」は「掃除機」と「宇宙探査ロボ」(発売元の「アイロボット」は、もともとNASAや軍事産業向けのロボットをつくっていました)。

「Netflix」は「レンタルビデオ」と「インターネット」。

『スター・ウォーズ』は「SF」と「神話」。

「画期的」「斬新」と賞賛されたものであっても、既存の要素の組み合わせや一部を変えただけであることがわかります。

「0→1」ではなく、「1×1」の掛け合わせ

 アイデアの本質を表している例として、名作映画『2001年宇宙の旅』制作時のエピソードを紹介します。

 監督のスタンリー・キューブリックと原作者のアーサー・C・クラークは、当初、「人類を進化させた宇宙人」を映像化しようとしていたそうです。

 神のような能力を持つ宇宙人なので、「人間が見たこともない姿」をしているはず。そう考えて宇宙人のデザインをはじめたものの、どんなに考えても「見たこともない姿」をイメージすることができませんでした。爬虫類のようだったり、ドクロのようだったり、既存のイメージの枠を1歩も出られなかったのです。迷いに迷って、「ピエロの姿をした宇宙人」というアイデアまで出たといわれています。

 結局、「見たこともないものは描きようがない」という結論に達して生まれたのが、誰もが知る「モノリス」の、ドミノのような直方体のデザインです。

 それでも『2001年宇宙の旅』は斬新な映画として大絶賛されました。「直方体」そのものは誰でも知っていますが、それで「宇宙人」を表現した映画は、過去になかったからです。

 歴史に残る天才クリエイターであるスタンリー・キューブリックやアーサー・C・クラークすら、「新しいもの」を生み出すことはできなかったのです。僕たち一般のビジネスパーソンにできるわけがありません。そもそも人に、新しいものを生み出す能力はないのです。

 編集者、ライター、漫画原作者として知られる竹熊健太郎氏は「もしまったく新しいものを思いついたとしたら、思いついた本人以外、誰にも理解できないものになる」と指摘しています。これは映画だけではなく、ビジネスでも変わりません。「新しいこと」は重要ではないのです。

 ネット上で消費者同士が中古品を売買するというアイデアを、日本で最初に普及させたのは「ヤフオク!」です。しかし、今では後発サービスの「メルカリ」が「ヤフオク!」を超える成功を収めています。

 エンターテイメント業界も同じです。複数のヒーローが集まったチームを初めて世に出したのは「DCコミックス」でしたが、実写映画化して大ヒットさせたのは「マーベル」でした。

 その他、オリジネイターではないけれど成功した例は数多くあります。「新しいこと」は過大評価されているのです。そう気づくと、肩の力を脱いてアイデアを出せるようになるのではないでしょうか。

<第4回に続く>

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