新型コロナの流行で再認識された「肺」の重要性。肺の強化で健康維持を!/最高の体調を引き出す超肺活①

健康・美容

公開日:2021/5/26

最高の体調を引き出す超肺活』から厳選して全5回連載でお届けします。今回は第1回です。新型コロナウイルスで、もっともダメージを受ける臓器・肺。これまで注目を集める機会がなかった肺にこそ、最高の体調を引き出す力が秘められています。自律神経研究の第一人者が、肺の重要性を徹底解説!

最高の体調を引き出す超肺活
『最高の体調を引き出す超肺活』(小林弘幸:著、末武信宏:監修/アスコム)

はじめに

エクモが教えてくれた「肺」の重要性

 新型コロナウイルス感染症(COVID19)の流行によって、ECMOの存在が一般にも広く知られるようになりました。

 エクモは、重症患者を救う「最後の切り札」として報じられていますが、その役割は単純明快です。エクモの役割は、体外で肺の機能を人工的に代替し、肺を一時的に休ませて回復や治療の時間を稼ぐことにあります。

 

 エクモのメカニズムを知ると、私たちの肺が普段どんな働きをしているのかよくわかります。

 エクモによる治療は、まず太ももの付け根の静脈にカニューレという太い管を挿入したあと、血液を体の外に取り出し、ポンプによって人工肺に血液を送ります。ここまでの血液は二酸化炭素を含んでいるため「暗い赤色」をしています。

 人工肺に送られた血液は、酸素と二酸化炭素の「ガス交換」が行われ、カニューレを通して首の血管に戻されます。このときの血液は、酸素を含んでいるため「鮮やかな赤色」をしています。

 このようにして、エクモは肺の機能を代理で行い、その間に肺の回復を待ち、通常の治療ではただちに絶命してしまいかねない患者の命を救っているのです。

 

 私が外科研修医時代、エクモの勉強でもっとも驚いたのが、含まれているガスが二酸化炭素か酸素かによって変わる「血液の色」についてでした。

 二酸化炭素を含んだ濁った血液が、人工肺を通過すると鮮やかで健康的な色に生まれ変わるさまを見て、「肺」がいかに健康状態に大きな影響を与えるかを思い知りました。

 そして、知識としてはもちろん知っていましたが、「酸素は血液に乗って全身に運ばれていく」ということを、エクモを目の当たりにして痛感したのです。

 

「肺胞」のおかげで人間は生きられる

 肺が担っているもっとも重要な役割は、ご存じのとおり「呼吸(ガス交換)」です。

 しかし、呼吸は意識しなくてもできるため、食生活などと違って、健康を考える時おざなりにしてしまいがちです。

 私たちは、食べ物から栄養を吸収しなければ生きていけませんが、同じように肺から酸素を取り込まなければ死んでしまいます。人間は、呼吸によって取り入れた酸素と食べ物から取り入れた栄養を結合させることで、生きるためのエネルギーを生み出しています。そのため、栄養と酸素は生命維持に絶対欠かせないものですが、数日栄養を摂らなくても生きていけるのに対し、酸素が足りないとものの数分で死んでしまいます。

 酸素はそれほど大切なものなのに、いま、「たっぷり酸素を吸えていない人」がとても多くなっているのです。

最高の体調を引き出す超肺活

 酸素と二酸化炭素のガス交換は、肺の中に張り巡らされた気管支の先端にある、「肺胞」と呼ばれる部位で行われています。肺胞の大きさはわずか0.1ミリ程度で、およそ3億から6億個あるといわれています。

 肺胞には、毛細血管が網の目のように取り巻いています。

 息を吸うと、酸素は3億から6億個ある肺胞の中に入り、毛細血管内の血液に溶け込んでいきます。血液は心臓に送られ、心臓から動脈を経由して全身の毛細血管に送られ、およそ1分かけて心臓に戻ってきます。

 その間に、腸から吸収した栄養と酸素が結びついてエネルギーが生まれ、全身の細胞は活性化します。エネルギーが生まれるプロセスで二酸化炭素が生成され、心臓に戻る血液には二酸化炭素が溶け込んでいます。

 心臓に戻ってきた血液は、肺胞に戻され、また酸素と二酸化炭素がガス交換されて、二酸化炭素は口から吐き出されていくわけです。

 

 このように呼吸は、心臓や血液循環とも密接に関わっているため、呼吸の質が、全身の健康状態を大きく左右することになります。

 

肺の機能低下が、免疫力を落とす

 肺の機能が弱まり、肺胞から酸素を充分に取り込めないと、全身の細胞が酸素不足に陥ります。全身に張り巡らされた毛細血管まで酸素が行き渡らないため、冷え性やむくみを引き起こし、酸欠状態になった細胞はがん化の原因にもなる可能性があります。

 また、脳に充分な酸素が届かず、集中力が減退したり、メンタルトラブルや認知症の一因にもなります。

 さらに、肺胞から充分に酸素を取り込めないと、血中の酸素濃度が下がり、足りない酸素を補うために呼吸の回数が増え、浅い呼吸になってしまいます。浅い呼吸は、自律神経のバランスを崩す原因です。自律神経は、血流や腸内環境と密接に関わっている健康状態を大きく左右する神経です。

 自律神経のバランスが崩れると、血流や腸内環境にも不具合が生じ、血管や内臓の疾患を引き起こしたり、腸におよそ7割生息している免疫細胞の働きも悪くなります。

 その結果、肺を含めた全身の免疫力が低下する危険性があります。

 つまり、ウイルスや病気に負けない強い体をつくるには、諸悪の根源である「肺の劣化」を防ぐことが絶対に必要なのです。

 

肺の機能は40歳から急激に衰える

 肺の機能の衰えは、自覚症状に現れにくいものです。しかし、自分はまだ若いから、あるいは体にはなんの不調もないからと、肺の健康をおざなりにするのは禁物です。風邪がなかなか治らなかったり、咳や痰が続いていたり、階段を上るくらいで息切れしてしまう人は、肺が弱っている可能性があります。

 肺の機能は、20代ごろから加齢とともに誰でも低下していきます。とくに喫煙者は40代以降になって急速に機能低下が進行することがあります。

 肺の機能低下とは、肺胞が壊れたり炎症を起こしたりしている状態です。こうなると、肺胞は酸素をうまく取り込めなくなってしまいます。炎症がひどくなると、慢性閉塞性肺疾患(COPD)という病気を発症することがあります。重症化すると一生酸素ボンベを手放せない恐ろしい病気です。

 しかし残念ながら、肺胞は一度壊れてしまうと、再生できません。脳細胞が壊れると二度と元通りにならないのと同じなのです。

 

 では、加齢による肺の機能の衰えは、あきらめるしかないのか?

 答えは、否です。

 肺の機能は何歳になっても高めることができます。

 実際、臨床の現場では、肺の手術が決まっている患者さんに、手術の1週間前から肺の機能を鍛えるためのトレーニングをしてもらいます。

 肺胞そのものを復活させることはできませんが、呼吸する力を強化し、血液に取り込む酸素量を増やすことはできるのです。

 その方法として考案したのが、本書で紹介する「肺活トレーニング」です。