他者を理解するために、「自分の常識」を振り返ってみよう。『琥珀の夏』/佐藤日向の#砂糖図書館㉒

アニメ

公開日:2021/7/24

琥珀の夏 (文春e-book)

著:
出版社:
文藝春秋
発売日:
佐藤日向

子どもの頃の記憶というのは不思議で、全て覚えているわけではないのに、断片的に印象的だった記憶が強く残っている。

幼稚園や小学校の頃の友達、先生の顔はハッキリ覚えてはいなくても、交わした会話や貰った言葉は、22歳になった今でも覚えている。

だが辻村深月さんの『琥珀の夏』という作品を読み終えたあと、今覚えている過去の記憶を、自分が美化せずに正確に覚えているか、自信がなくなった。

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今回紹介する『琥珀の夏』は、子どもの白骨死体がかつてカルトと批判された〈ミライの学校〉の敷地から発見されるところから、物語が始まる。

弁護士の法子は、小学生の頃に参加した〈ミライの学校〉の夏合宿で出会った少女の遺体かもしれない、と胸騒ぎを覚える。出会いから30 年の月日を経て、〈ミライの学校〉で出会った彼女たちの運命の歯車が、事件をきっかけに再び動き出す。

本作は私がこれまで読んできたSFの要素がある辻村さんのミステリー作品とは少し違う、リアリティ溢れる夏特有の瑞々しさや、キラキラした綺麗な思い出を一冊に詰め込んだような、まさに『琥珀の夏』というタイトルがぴったりの作品だ。

私はこの作品を読み終えたあと、辻村さんの言葉選びはなんて繊細で、一言一言が重く突き刺さるのだろうと、改めて感じた。

本作では、物心がつく前から子どもたちは親元を離れ、〈先生〉と呼ばれる大人たちと〈ミライの学校〉で生活をする。彼らは親子という関係があるにもかかわらず、1年に一度だけしか面会をすることが出来ない。

親の影響というのはとても大きく、自分が持つ常識を形成するのは全てとは言わずとも、親の行動や発言が影響すると、私は思っている。

だからこそ、〈ミライの学校〉で行われる教育は親ではなく、赤の他人の思想を押し付けているように見え、両親がただの血縁者でしかなく、子どもの心の拠り所になれていないことに、読んでいる途中は恐ろしさを感じた。「自分が親と暮らすのが普通だからって、自分の常識だけでかわいそうとか同情するの、ここの子たちに失礼だよ」という小学生の女の子の言葉に、思わず心臓がドキッとしてしまう。

私がそう感じたのは、もしかしたら自分の常識に他人を当てはめようとしているから、なのかもしれない。人それぞれ持つ常識は違うということを理解し、自分の考えを他人に押し付けないことは、簡単そうに見えて実は難しく、他人と関わる上でとても大切なことだ。

去年に引き続き、家にいることが多い今年の夏に、夏らしい眩しさと子どもだからこそ生まれてしまう残酷さが含まれた本作を、ぜひ手に取って頂きたい。

さとう・ひなた
12月23日、新潟県生まれ。2010年12月、アイドルユニット「さくら学院」のメンバーとして、メジャーデビュー。2014年3月に卒業後、声優としての活動をスタート。TVアニメ『ラブライブ!サンシャイン!!』(鹿角理亞役)、『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』(星見純那役)のほか、映像、舞台でも活躍中。

公式Twitter:@satohina1223
公式Instagram:sato._.hinata
レギュラー配信番組『佐藤さん家の日向ちゃん』:https://ch.nicovideo.jp/createvoice

この記事で紹介した書籍ほか

琥珀の夏 (文春e-book)

著:
出版社:
文藝春秋
発売日: