新日本語認定/オズワルド伊藤の『一旦書かせて頂きます』⑲

小説・エッセイ

公開日:2021/8/6

オズワルド伊藤
撮影=島本絵梨佳

時代時代で流行る言葉がある。所謂流行語。流行語までいかないものは流行り言葉とでも言うのだろうか。

お笑い芸人なんてのは、流行りにも敏感でなくてはならないのだろうが、その時に流行ったり旬なものばかりにとらわれてしまうと、芯が見えなくなってしまったり、そもそも流行りを生み出す側にいるべきだし、オリジナルの言葉を生み出さなくなってしまうような気もしている。

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むしろ逆に、使えなくなってしまった言葉、俗に言う放送禁止用語なんてもののおかげで、芸人がまたそれをなんて言うか、頭を捻らせることが出来ているとは思う。

漫才やる時なんかも、テーマはなるべく不変なものである方がやりがいはある。流行りのテーマは流行ってる間しか笑えない気がするし。

だから流行語とか流行り言葉に関しては、個人的にもあまり使わないようにしている。まあ一周廻ってまだその話してんのかと懐かしい笑いは産まれるのかもしれないけども。

だがしかし、中にはどうしても使いたい言葉も存在する。

過去で言えばチョベリバチョベリグなど。確実に間違いなく何十年も前に流行った言葉ではあるが、これに関してはまさに旬な時代からめちゃくちゃにハマったのを覚えている。

だって超ベリーバッドって語呂から意味から最高じゃない? スーパーじゃなくて超使ってんだよ? 挙げ句の果てには略してチョベリバとか言ってんだよ? おまけに対義語がチョベリグだよ? 流行語界の風神雷神だよこんなもん。

流行語っていうくらいだから、まず間違いなく使いたくなる言葉ではあるってことではあるんだけど、それにしたってなんてチョベリグな言葉なんだと思える言葉に出会えた時は、みんなが使ってようがなんだろうが使いたくなるのだ。

そんな中、ここ数年で僕がかなり気に入った言葉が「エモい」である。

先日、空気階段という同期のコンビが、ラジオで僕がエモいという言葉を使いまくっていることに対して、芸人でエモいって使ってるやつ見たことないだのなんだのぬかしていたみたいだが、もちろんエモいという言葉の魅力に気づけない彼らには後日気持ちの良いくらいの暴力をお見舞いさせて頂く。

なんというか、もうエモいって言葉自体エモいっていうか、これ以上エモい事柄を表現出来る言葉あるのかねと思うし、ていうか流行語通り越して正式に新日本語認定されていいんじゃないかとすら思う。人それぞれなんとなく普段から感じていたそれぞれの言葉で表していた感情を、1つの単語に統一してくれた気がするのだ。

言葉の響きや使いやすさに加えて、僕はこの「エモい」という状態が大好きである。

個人的に、エモいという言葉が辞書に載るとしたら「小さな奇跡が起きている状態」と意味をつける。

自分の実体験から例を挙げてみる。

これを読んでいる方の中にはご存知の方も多いかと思うのだが、僕の妹は天才女優である。

僕が芸人人生をスタートさせた時点から、すでに知っている人は知っているくらいの女優にはなっていて、もうずーっと、今までずーっと比べられてきた。

妹は売れてるのに。妹は天才なのに。

ぐうの音も出なかった。だって事実だもの。

ただぐうの音も出ないだけで平気ではなかった。

そんな状態が何年も何年も続いた。いや全然今も続いているのだろう。

それでもやっとこさで少しずつ少しずつ妹の背中がほんの少しだけ見えてきた中で、ある日の地下鉄車内での広告画面。

妹のCMが流れた。

そしてそのCMが流れて、次のCM。

自分が出ていたCMが流れた。

満員の車内。そんなの関係なかった。

エモっ!!

気が付いたら声が出ていた。
いや、正しくは、

エんモっ!!

だった気がする。

とにかく、この小さな奇跡が起きた状態を言葉にしようとした時、僕の第一声はこれだった。

流行ってるから使うのではなく、心の底から出てしまったのだから、僕はこの言葉を認めざるをえない。

とはいえ僕はお笑い芸人。

本当の本当に、大きな奇跡みたいな状態に出くわした時、自分の第一声が楽しみで仕方ないのも、これはこれで楽しみなのである。

一旦辞めさせて頂きます。

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オズワルド 伊藤俊介(いとうしゅんすけ)
1989年生まれ。千葉県出身。2014年11月、畠中悠とオズワルドを結成。M-1グランプリ2019、2020、2021ファイナリスト。


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