色褪せる美しさ/前島亜美「まごころコトバ」⑫

アニメ

公開日:2021/9/24

前島亜美「まごころコトバ」

 ずっと、早く大人になりたかった。早く成人して歳を重ねたい。“自立した大人”にあこがれていたので、名乗る歳が一つ増える誕生日が好きだった。

 歳を重ねること自体が好きなため、誕生日だからといってはしゃいだりすることはなく、ケーキを食べて今日から始まる新しい歳について考えるだけでいつも満足する。

 こうしたお祝いの時や、クリスマスなどに「プレゼントは何が欲しい?」と聞かれた時、うまく答えることが難しい。

 幼いころは新作のゲームや、好きな戦隊ヒーローのオモチャ、面白そうな本など、欲しいものに溢れていた気がするが、いつからか“欲しいと思うもの”がなくなっていた。後で決めると言いながら、結局何ももらわない、買わないということが長く続いていた。

 必要なものはあっても、欲しいと思うことがない。せっかくのお祝いごとに“何か”が欲しいという気持ちはあるのだが、その何かが分からない。

 年頃になっても女の子らしいとされる洋服やコスメに強い関心がなく、ブランド物にも全く興味がなかった。

 女子力という言葉。芸能界で仕事をしている女性は、意識が高い印象だ。

 自己流のメイクやコスメ、私服のコーディネートなど、仕事の企画として披露する機会もあるため、“ある程度は知っていなくちゃいけない”何かを好きでいなきゃいけない”そんな気がして、見よう見まねで流行りのものに手を出してみるものの、自分にはあまりしっくりこない、魅力があまり分からない、ということを繰り返していた。

 自分には好きなものはないんだろうか。何かを手にするのを楽しみにしたり、何かを欲しいと思ったりしないのだろうか…。

 ある現場で、とてもすてきな役者さんに出会った。手に持つ台本に、年季の入った革のカバーをかけていた。

「すてきだ」ひと目でそう思った。これまで役者として過ごしてきた全ての時間を、その革のカバーと過ごし、全ての物語と、言葉と、共に出会ってきたのかと思うと、深みのある革の色がさらに美しく、かっこよく見えた。

 同世代の役者で革のカバーを使っている方はあまりいないのではと思う。役者にとって何よりも大切な台本を良いカバーで包むという心意気は、芝居に対する覚悟のようなものも見える気がした。総じて、心惹かれる点ばかりだった。

 革製品の好きなところは“経年変化”するところだ。

 汚れや傷が全て味となり、魅力となる。なんてすてきなんだろうと思う。すぐには変化せず、長い長い時間をかけて色を変えていく。まさに人生のようなものだ。

 初めてオーダーメイドのお店に足を運んだ時は感動と興奮を抑えられなかった。職人が一つ一つ手作りをする、世界に一つだけの革製品。

 良いものを長く使いたいと考えているため、まだ多くのものを持っているわけではないが、少しずつ、少しずつ、集めていきたいと思った。

 私は流行りものや高価なものではなく、共に人生を歩めるもの、一緒に色褪せ、深みを知っていけるようなものが好きなのだと感じた。

 見渡した中に心惹かれるものがなくとも、焦らず生きていけば、いずれきちんと自分が好きだと思えるものに出会っていける。

 そしてこれからも、そんな出会いが増えていくのかもしれないと思うと、生きていくのが楽しみになった。

 歳を重ね、さまざまな大人の趣味嗜好を備え“一生モノ”との出会いを探し求めたい。

第13回に続く

まえしま・あみ
1997年11月22日生まれ、埼玉県出身。2010年にアイドルグループのメンバーとしてデビュー。2017年にグループを卒業し、舞台やバラエティ番組などで活躍。またアプリゲーム『バンドリ! ガールズバンドパーティ!』(2017年)でメインキャストの声を演じ、以後声優としても活動中。10月6日(水)より毎週水曜24:00にテレビ東京ほかにて放送のテレビアニメ『古見さんは、コミュ症です。』に矢田野まける役で声優出演。

Twitter:@_maeshima_ami
オフィシャルファンクラブ:https://maeshima-ami.jp/