寺島惇太「拝啓、日陰から」③陰キャと将来の夢

アニメ

公開日:2022/1/1

寺島惇太
卒業文集に寄せられた母からのコメント

 幼い頃から陰キャであることを自覚し、周囲にはそれをひた隠しにしていたぼく。陽キャとしての振る舞い方を身につけるものの、やはり完全に陽キャになれるわけではありません。どこまでいっても、陰キャは陰キャなのです。

 そんなぼくが何故「声優」を目指すようになったのか、不思議に思う人もいるでしょう。声を使う仕事とはいえ、声優だって立派な芸能人。そんな世界に陰キャが足を踏み入れるなんて、素足で茨の道を突き進むようなものです。

 中学時代、机の中に隠していたラノベを発見されてしまったことでクラスメイトたちにオタクであることがバレてしまったぼくは、高校では完全なる方向転換を図っていました。髪の毛を整え、軽音部に入部し、“イケてる奴”に擬態したのです。でも、その目的は「それまで寺島惇太をバカにしてきた人たちにカウンターを食らわせること」でした。陽キャになりたかったわけではなく、やってやるぞ! という、見返したいような気持ちでした。だから、軽音部のバンドマンとして文化祭の華々しいステージに立ったとき、ぼくの目的は達成されると同時に、燃え尽きてしまったようで……。

 やがてぼくは、学校生活に身が入らなくなっていきました。そもそも勉強があまり好きじゃなかった上に、文化祭でみんなを見返すという目的が達成されてしまったことで頑張るモチベーションもない。これからなにを目標にすればいいのかすらわからない……。そんな状態だったので、中学生の頃から仲良しだったオタ仲間の家に入り浸るようになっていたのです。ゴールは見失っていたものの、趣味の合う友達と過ごす時間はまさに楽園に居るようでした。

 でも、そんな日々も終わりを迎えます。学校から、「寺島くんが出席していませんが、大丈夫ですか?」と連絡があったのです。もちろん、なにも知らない親は大激怒。

「あんた、学校行ってなかったの!?」
「いや……友達の家に行ってて……」
「なにやってんの!!!!!」

 そのときの母は、鬼の形相でした。本当に恐ろしかった……。まぁ、ぼくが悪いんですけど。

 でもそれを機に、将来について親としっかり話し合いました。大学に行くつもりはないけど、すぐに就職するのも難しい。じゃあなにをするのか。

 そこで思い至ったのが、オタク趣味を活かすこと。その頃、『ひぐらしのなく頃に』が流行っていたこともあり、作者の竜騎士07さんみたいに「同人作家」になって一発当ててやろうと思ったのです。それなら大学に行かなくたって身を立てられる。

 それを説明すると、親も「やりたいことがあるなら、留年してまで高校を卒業しなくてもいい」と納得してくれました。ただし、ゲームにせよマンガにせよ、なにかを生み出す作家になるためには勉強が必要。そのために専門学校に通うなら、大検の資格だけは取っておきなさい、と。

 そこでぼくはあっさり高校を中退し、大検を取得しました。同時に専門学校探しをスタートさせることに。これで受験のための勉強から解放され、やりたいことに打ち込める!

 ……と思いきや、やはり現実は甘くありません。さまざまな専門学校に体験入学してみましたが、知ってはいたものの想像以上にゲームもマンガも作るのは大変。とてもじゃないけど、ぼくには無理だ。せっかく拓けた道が、閉ざされていくような気持ちでした。

 ところが、そんな日々の中で出合ったのが声優という職業です。きっかけは深夜に放送されていた『魔法先生ネギま!』というアニメ。放送の合間に流れるCMで、日本工学院専門学校の存在を知ったのです。そこでは声優の勉強ができるとのこと。

「これだ!」と直感しました。軽音部で歌っていたときに「寺島くん、声いいね」と褒められたこともあり、声優に活かせるのではないかと思ったのです。もちろん、友達には笑われました。

「無理に決まってるじゃん」
「金の無駄だからやめておけ」

 それでもぼくの決意は揺らぎません。日本工学院専門学校に入って、声優になりたい。その思いを親に告げると、もちろん彼らも驚いていました。でもそれは「無謀なことを言い出した」という驚きではなく、それまで自己主張をしなかった子が初めて夢を口にしたことに対するそれだったようです。

「あなたが初めてやりたいって言ったことなんだし、やってみなさい。ただ、声優は一握りの人しかなれないんだろうから、25歳まで頑張ってみて、それでも無理だったら就職すること。早めに引き返せる25歳までは応援するよ」

 その言葉はいまでも忘れられません。あのひと押しがあったからこそ、こうしてぼくは声優として立っていられるのです。

~~新年のひとこと~~

寺島惇太

【著者プロフィール】
てらしま・じゅんた●1988年8月11日、長野県生まれ。2009年に声優デビュー。『アニメガタリズ』『TSUKIPRO THE ANIMATION』『アイドルマスター SideM』『KING OF PRISM -Shiny Seven Stars-』『A3!』といったテレビアニメを中心に活動するほか、ゲームやドラマCD、映画の吹き替えなどでも活躍。また、2019年には『29+1 -MISo-』でアーティストデビューも果たす。2021年12月に3rdミニアルバム『Soul to』を発売。
公式Twitter:https://twitter.com/juntaterashima3
公式YouTubeチャンネル:https://www.youtube.com/channel/UCDuCCq1gONtzb3YGFUtuwTw

構成協力=五十嵐 大

<第4回に続く>

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