弱くなったときこそ、本当の強さが現れる。ホスピス医が語る「人間の強さ」とは?/あなたの強さは、あなたの弱さから生まれる
更新日:2022/7/20
弱くなったときにこそ、その人の本当の強さが現れる
では、彼らは本当に弱くなったのでしょうか?
答えは、ノーです。
彼らは単に、目に見えるわかりやすい強さを失っただけです。
よく、「苦境に立たされたときにこそ、その人の真価が問われる」と言いますが、私は「弱くなったときにこそ、その人の本当の強さが現れる」と思っています。
実は、強さには、先に挙げたようなわかりやすい強さのほかに、弱さの中で見つかる強さ、弱さから生まれる強さがあります。
最初のうちは、家族や大事な人たちとの別れが迫っていること、体を思うように動かせず、自分でできることが限られていることを嘆き、「自分はもう、社会の役に立たない」という思いに苛まれていた患者さんの多くは、人生最大の苦しみを味わう中で、少しずつ変わっていきます。
それまで強かった人が、弱さを得て、自分をわかってくれる存在、自分を支えてくれている存在に気づき、感謝し、人生の本当の意味を見つけるのです。
そして、絶望の中にいた彼らが、心の穏やかさを手に入れ、前を向いて最後まで生きていくようになります。
苦しみを抱えながらも前向きに、あなたらしい人生を生きていくために
いのちが限られた方だけではありません。
今、健康に生きているみなさんも、日々さまざまなことに悩んだり、苦しみを抱えたりしておられるのではないかと思います。
中には、解決できない問題もあるでしょう。
しかし、すべての問題を解決できなくても、折れない心を保ち、困難と向き合うことはできます。
どうしても逃れられない苦しみを味わいながらも、大切なものに気づき、他者に感謝し、希望を抱き、前を向いてあなたらしい人生を生きていくことはできます。
そのために必要なのは、まず自分自身で、あるいは「自分の気持ちをわかってくれている」と思える誰かの力を借りて、自分の弱さを認め、受け入れること。
そして、あなたを支えてくれているものに気づくことです。
自分の弱さを認め、受け入れること、あなたの気持ちをわかってくれる誰かの存在、あなたを支えてくれるもの、それらによってもたらされる、苦しみと向き合い、前を向いて生きていく力、希望、あなたらしい人生。
こうしたものこそ、弱さの中で見つかり、弱さから生まれる本当の力、本当の強さだと、私は思っています。
二〇二〇年春、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大のため、世界は甚大な被害を受けました。
また、二〇二二年、コロナ禍もまだ終息しないうちに、ウクライナでは紛争が起こり、世界中に不穏な空気が立ち込めています。
新型コロナウイルスに感染し大変な思いをした人、亡くなった人もいれば、大事な人を失った人、仕事を失った人もいます。
学校や職場に行くこと、飲食を共にすること、イベントに参加すること、老いた両親に会いに行くことさえできなくなり、孤独感を抱えている人もたくさんいます。
紛争に心を痛め、将来に不安を感じている人もいるかもしれません。
あるいは、もともと健康や進路、仕事や経済的なこと、人間関係などで、何かしらの悩みを抱えていた人もいるでしょう。
決して明るいとはいえない社会状況の中、この本によって、みなさんの心の中に本当の強さが生まれ、心の穏やかさを得られることを、私は心から願っています。