伝わらない「虚しさ」を知る世界的な演出家が語るコミュニケーションの本質

公開日:2013/1/21

わかりあえないことから コミュニケーション能力とは何か

ハード : PC/iPhone/Android 発売元 : 講談社
ジャンル:趣味・実用・カルチャー 購入元:BookLive!
著者名:平田オリザ 価格:648円

※最新の価格はストアでご確認ください。

コミュニケーションについて書かれた本はうんざりするほどある。察しあう文化を踏襲してきた日本人のコミュニケーション術は世界では少数派だ、なんてこととっくにみんな知っているのに、いまだにグローバル化せねばと焦りもがいている。学校でも会社でもコミュニケーション、コミュニケーションと強迫的に喉を枯らして叫ばれ、「コミュ障」は人格否定であり、侮辱の言葉だ。

advertisement

著者の平田オリザ氏は、主張せよ、欧米化せよ、などと声高に叫ぶことはない。コミュニケーション術=人格ではなく、「魂を売り渡すわけではない。相手に同化するわけでも」なく、「多数派のコミュニケーションをマナーとして学べばいい」と静かに熱を持って述べる。

柿くへば 鐘が鳴るなり 法隆寺

この数文字の句にジンと胸にせまるものがある日本人。しかし、文化が違う欧米人には、鐘が鳴って、柿食ってなんでジンとくるのか理解できない。そして、この感情を言葉で説明するのはとても虚しい作業だ。

私たちだってよく知っている「それはどこが面白いんですか?」と聞かれて説明する、あのとてつもないガッカリ感。飲み会やお笑い番組ならその「ずれ」を(あるいは理解できない者を)笑いにするだろう。しかしそうでない場面なら、相手の文化に思いを馳せて伝えなければ、自分の世界だけで生きていくしかなくなるし、それはもうできない。

新しい現代口語演劇の作劇術を定着させた劇作家・演出家で、現在は大学の教授などを勤める平田氏。時々我田引水的に引き合いに出す心理学などよりも、演劇論から引き出されるコミュニケーション論は、いま求められているコミュニケーション力と教育の差について考えさせられる。

大切なのは虚しくなりつつも、心を閉じずに、ムリなく、技術を持って伝えること。表現するため、伝えるためにひたすら真摯に取り組み、具体的な方法を生み出し続けてきた者が知る「虚しさ」と「覚悟」が満ちている。


子どものコミュニケーション能力は低下していない。社会が要求する能力が高くなっている、と

小学校の演劇の授業を通して社会が要求する能力に対応するコミュニケーション教育を考える

「その竿を立てろ」というセリフから日本語特有の表現と国語教育のずれを説明

実際の教材の写真もあります

「みんなちがって、みんないい」ではなく…。これも清清しい「覚悟」です
(C)平田オリザ/講談社