作家の様々なスタイルと挑戦が楽しめる21の恋愛譚

小説・エッセイ

公開日:2013/6/19

タイニーストーリーズ

ハード : Windows/Mac/iPhone/iPad/Android/Reader 発売元 : 文藝春秋
ジャンル:小説・エッセイ 購入元:紀伊國屋書店Kinoppy
著者名:山田詠美 価格:586円

※最新の価格はストアでご確認ください。

山田詠美氏といえば『ベッドタイムアイズ』で鮮烈なデビューを果たした直木賞作家。彼女の描く自由奔放に生きながらもどこか寂しげで、どこか頼りなげな女性たちは、あの時代の象徴のような気もしたし、世間一般で想像され、よしとされている女性像をことごとく裏切っているような痛快さもありました。ポルノではなく、セックス描写を女性にとって一般的なものにしたのも彼女の作品ではなかったでしょうか。

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しばらくぶりに彼女の作品を読みながら、しみじみ、長い間にわたって同じ作家を読むという楽しみは格別だなぁと思いました。文はひとなり。小説家にも永いキャリアの中でスタイルが確立し、もしくは挑戦のときがあるものです。

今回のこの1冊では文章がしっとりとし、集められた小作品の中、いろんなスタイルを試そうとしているように見えます。主人公も切り口も、作品ひとつひとつによって全く違い、作家はこの1冊を、次のスタイルを探すデッサン集のように書き上げたのではないかと想像しました。

電信柱から見た世間。アル中で精神病院に入った夫を見舞う妻とその情事。戦争に行く前のGIとの不思議な旅館での幻のような逢瀬。家族に尽くしてきたのになんの見返りもなく絶望の果て、「百歳になったら実行すること」という目標を立て、窃盗や強盗、強姦を夢見ながら活力を得る主婦。

エキセントリックな世界を描いているのに、なぜか親しみ深い人たち。秀逸です。山田詠美という作家名を見るだけでそのスタイルを想像し、避けていた方々がいれば、ぜひこの1冊をお勧めします。作家が成熟期に入り、行間にストーリー以上のものがにじみ出て来ているように思えました。山田氏と同年代の女性はぜひ。


この一編の情事は、相当に切ない。すごい設定

電信柱になると世間も随分違って見えます

普通の主婦が普通に悩み、常軌を逸する目標をたてた