新人介護職員「あなたじゃ嫌よ!」と拒絶され。“介護とは何か”を考える、笑いと感動のお仕事小説『介護の花子さん』【書評】

文芸・カルチャー

PR 公開日:2025/1/23

介護の花子さんあさばみゆき/Gakken

 正直なところ、介護という仕事にはマイナスのイメージばかりを抱いていた。日々、老いや死が身近にあるその仕事は、肉体的にも精神的にも辛いことばかりに違いない。そう勝手に思い込んでいた。

 だが、『介護の花子さん』(あさばみゆき/Gakken)を読むと、そんな印象はガラリと変わる。人気作家・あさばみゆきさんが実際にサービス付き高齢者向け住宅「ココファン」への取材をもとに描き出したこの作品は、なんと朗らかで、なんと爽やかな物語なのだろう。

 新人介護職員の奮闘を描き出すこの本には、介護の現場のリアルがいきいきと、そして、コミカルに描き出されている。小中学生向けの本だというが、これは親子で、いや、家族みんなで読んでほしい。入居者とその家族、介護スタッフの温かくもちょっぴり切ないこの物語は、子どもたちや介護という仕事を志す人だけでなく、介護を経験した人、これから経験するかもしれない人の心にも響くに違いない。

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 主人公は、山田花。学生時代は「花子」というあだ名で呼ばれてきた、ちょっぴり能天気な22歳だ。自分のことを平凡でこれといった特技もないと思っている彼女は、やりたいこともなく、いざ就職活動がはじまっても、「なるべく苦労しないで、楽にやっていける方法はないかな」としか思えず、周囲が次々と内定を獲得するなか、大苦戦。新卒に出遅れること4カ月目の7月、介護が必要な、もしくはこれから介護が必要になるかもしれない高齢者向けの住宅、サービス付き高齢者向け住宅「ふぁんホーム」でどうにか働き始めることになった。

『介護の花子さん』登場人物

「介護の仕事なんて大丈夫?」という家族や友人からの心配をよそに、何も考えずにその現場に飛び込んだ花の毎日は、上手くいかないことの連続。きちんとした性格の入居者サチからは初対面のはずなのに「あなたじゃ嫌よ!」と拒絶され、さらには、失敗を笑顔でごまかそうとしたために、「あなたのそのうさんくさい笑顔が、本当に嫌い」とまで言われてしまう。

 同い年だが入職2年目の真面目な先輩スタッフ・聖良からも「介護の仕事に向いてない」と言われ、少し仕事に慣れてきたと思っても、「あなたのやってるのは、『介護』じゃない!」と叱られる。花はどこで間違えたのだろう。その理由を知るにつれて、花と同様、思わず私たちも、「介護とは何か」に気づかされ、ハッとさせられる。

 失敗ばかりの日々に、花はすぐに転職を決意するが、厳しくも優しいスタッフたちに見守られながら、さまざまな入居者と接するうちに、次第に介護という仕事のやりがいに気づいていく。

 そうか、介護の現場は、入居者たちの「人生」と向き合う場所なのか。当然、それは「命」と向き合うということだから、もちろん、大変ではある。それでも、懸命に入居者たちと向き合うからこそ、ここでは、心からの「ありがとう」がもらえるのだ。

 朝の「おはようございます」から「おやすみなさい」までずっと一緒にいて、外にお出掛けした方には、「おかえりなさい」「ただいま」と挨拶を交わす。家族みたいに食事や風呂やトイレまで関わって、寝顔を見て回る。「生きる死ぬ」の話が身近な現場で、自分の仕事が誰かの人生を左右してしまうことに怖さを感じながら、それでも花は、次第に「あの人たちになにかできることがあるのならば」と思い始めるのだ。

 花が関わる入居者たちが笑顔になるたびに、私たちの胸にも熱いものが広がる。いつも失敗して反省した気になっても、「どうせ自分はこんなもの」とどこかで思っていた花の成長ぶりにも心動かされてしまう。——ああ、介護の現場って、こんなにも温かいものなんだな。こんな介護スタッフが世の中にあふれてほしいな……。

 泣けて笑ってまたまた泣けるこの感動ストーリーは、あなたの中の介護のイメージも、きっと変えてしまうだろう。「命」と「人生」と向き合う最高のお仕事小説を、是非ともあなたも家族みんなで読んでみてほしい。

文=アサトーミナミ

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