我が子がLGBTQだったら、どう受け止める?当事者とその周囲の人物の感情を、ユーモラスかつリアルに描いた小説『息子のボーイフレンド』【書評】

文芸・カルチャー

PR 更新日:2025/2/3

息子のボーイフレンド秋吉理香子/双葉社

 昨今、LGBTQへの意識が高まり、さまざまなところでジェンダーフリーへの取り組みをみかけるようになってきた。でも、そうした意識って、どこまで「自分事」として根付いているのだろう。「誰もが自分らしく生きられる社会はすばらしい!」という理念は理解するけれど、異性愛者の大半はどこか「自分とは関係ない世界のこと」と思っていたりしないだろうか。

 2021年に刊行され、2025年1月15日に双葉社より文庫化された秋吉理香子さんの『息子のボーイフレンド』は、そうした半ばキレイ事を、ユーモアをまじえながらリアルに実感させてくれる一冊だ。タイトルで察する通り、「息子」が「ボーイフレンド」を作ったという状況(つまり息子は「ゲイ」ということだ)を描いた小説であり、読めばきっと「実際のところ、自分はどう受け止めるか?」を、かなり具体的に考えせられるに違いない。

 物語はいきなり、専業主婦の杉山莉緒(40)が、高校2年生の一人息子・聖将(きよまさ)からの「自分はゲイで、彼氏がいる」とのカミングアウトをファミレスで聞き、衝撃を受けるシーンから始まる。女子高生の頃にいわゆるBL好きの腐女子だった莉緒は、散々「男同士の際どいシーン」をマンガに描いていながらリアルには免疫ゼロ。「あんなこと描いてたからバチが当たった」とばかりに盛大に取り乱すが、親友の優美に「とりあえず会ってみろ」と諭され、交際相手を自宅のランチに招くことにする。会ってみれば相手の藤本雄哉(ゆうや)は一流大学の2年生で母親を早くに亡くし、家事は勿論、祖母の介護までしている苦学生で、何より聖将に勝るとも劣らないイケメンという好青年で…。

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 イケメン&苦学生&気配り上手などなど男女の恋愛だったらなんの問題もない、むしろ親が諸手をあげて歓迎しそうな相手に対して、どうしてもどうしても、真っ正面から莉緒は「いいよ」とは言ってあげられない。その反応に「ええー?」と反発する声もありそうだが、同じく思春期の子を持つ親ならば「そうなるよね…」と莉緒に同情する向きもあるだろう(ぶっちゃけ「えええ? うちの子は大丈夫?」とばかり、ジェンダーフリーもあったもんじゃない反応を示す親御さん、割といそうな気がする)。

 むしろ、だからこそ、そんな方にこそぜひ読んでもらいたいのが本書なのかもしれない。不安、居場所のなさ、罪悪感…彼らが抱えるさまざまな痛みが大事な「我が子」が直面する苦しみとして伝わってくるし、大事な「我が子」だからこそ「どうしてあげたらいいのか?」と、真っ正面から向き合うことになる。なにせ、彼らにとっての第一の障壁は「親である、あなた自身の気持ち」なのだから。

 結局のところ、家族が認めたからといって、マイノリティである彼らの未来はけっして安寧なわけではない。だからこそ、「理解してくれている人がいる」ことがいかに彼らにとっての支えになるのかをあらためて思い知る。そしてそれが家族という存在だったら、どんなに心強いことか。ジェンダーフリーが社会に浸透しつつある今だからこそ、ユーモラスに「ほんとう」のデリケートな感触を心に刻みつけてくれる本作で、一度「自分事」として考えてみてはいかがだろう。

文=荒井理恵

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