新川帆立の新作『目には目を』 罪を犯した少年たちの明と暗。復讐と贖罪、あるいは友情と更生の物語【インタビュー】

小説・エッセイ

公開日:2025/2/8

※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2025年3月号からの転載です。

 人を殺した罪で少年院に収容され、退院後、被害者の母親に殺された少年A。事件を追うルポライターは、Aと同時期に少年院で過ごした“仲間”の少年たちに取材する。その目的は、Aの情報を提供した“密告者”を見つけること。ルポライターの目を通して見えてくる、少年たちそれぞれの罪と罰とは──。

取材・文:皆川ちか 写真:冨永智子

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 デビュー以来数多くのリーガル・エンターテインメントを旺盛に発表してきた新川帆立氏。新作『目には目を』では少年犯罪をテーマに掲げている。最初に執筆動機を尋ねたところ、こんな答えが返ってきて内心面食らった。

「社会にうまくフィットしていない人たち、いわゆる社会不適合者について書きたかったんです。というのも私自身がそうだから」

 新川氏の経歴を見ると、社会不適合どころかその反対ではないかと思われたからだ。けれど話を聞いていくうちに、本作の少年たちの抱える苦しみは、作者自身の苦しみなのかもしれないと感じられていった。

社会にフィットできない子の気持ちが分かる

 作家になる前、新川氏は通信制高校を運営する学校法人の法務部に務めていた時期があったという。

「とても自由な校風で、みんなで足並み揃えて同じことをやろう! という感じが全然ないのが素敵でした。私は子どもの頃、学校へ行くのが嫌いだったので、こんな学校に通いたいと思ったくらい」

 という話を担当編集者にすると、「では定時制高校の話を書きませんか」と提案された。だけど、ぴんとこなかった。

「たぶん定時制高校の話というより、普通の学校や社会に適応できない子どもたちの話を書きたかったんですね。それで編集さんと話しあううち、リーガル要素も入れてほしいとリクエストをされて。社会にフィットしない子どもとリーガル要素というと、少年法かな、となりました」

 本書には6人の少年が登場する。数人がかりでひとりの少年をリンチ死させた大坂君。幼い子を公衆トイレに連れ込み絞殺した堂城君。母親を刺殺した小堺君。特殊詐欺・盗撮・窃盗未遂を犯した進藤君。家庭内暴力の末、姉に重傷を負わせた岩田君。そして2人の幼い少年少女を殺し、世間の注目を集めた雨宮君。

 この中の誰かが復讐者によって殺され、誰かが彼の情報を復讐者に売っている。

「『小説 野性時代』で10回にわたって連載したのですが、殺される少年Aを誰にするかは決めないで書きはじめました。予め決めてしまうと、うまく筆が進まないんです。キャラクターの運命を最初に決めておくというのは、ストーリーのために人間を動かすということだから。それは私にはおもしろく感じられなくて」

 だからストーリーや各キャラクターの性格などは、敢えて詳細には決めず書きはじめるという。

「書くうちに少年Aが誰になるのか見えてきました。ああ、この子がきっと殺されるんだろうな……と。各自のしゃべり方や癖、生い立ちなどを考えながら書いていくと、だんだん分かってくるんです。きみってこんな子だったんだねって。私、ストーリーはざっくりとしか決めないのですが、ディテールはむちゃくちゃ考えますね。ディテールからストーリーが立ち上がってきます」

 さまざまな罪を犯した6人の少年。ルポライターの仮谷はつとめて彼らを断罪しようとせず、ただ観察する。

 少年院での日々を「楽しかった」と振り返る者もいれば“元猟奇殺人犯YouTuber”として活動する者、マルチ商法に走る者に、復帰後も社会になじめない者。仮谷のルポという形をとって浮かんでくる各人物像を知るにつれて、彼らがどうして罪を犯してしまったのか、その背景に思いを馳せざるを得ない。

「作中では明確に書いてはいませんが、それぞれの子たちにはケアが必要であると想定して書きました。それが環境による後天的なものか、脳機能障害による先天的なものかという点も含めて考えています。それを明示しなかったのは、読む人に“障害があるからこうなっちゃったんだ”という受けとめ方をされないように。その兼ねあいには気を配りました」

 たとえば片時もじっとしていられず、衝動的に行動する進藤君。ある人は彼を「落ち着きがない性格だ」と受けとめるかもしれないし、ある人は「発達障害ではないか」と感じるかもしれない。どう解釈するかは読み手に委ねられている。

 決して加害者を擁護するわけではないけれど「彼らの気持ちがすごく分かる」と新川氏は語る。

「つまり私もこちら側。社会にフィットできずに生きている感覚がずっとあるんです。雨宮君のような一見特殊なパーソナリティにしても、こういう性格の子がこんな立場に置かれたらこういう行動をとるよね、という具合に、やはりどこかで共感してしまう」

 新川氏はあるエッセイで、子どもの頃から集団行動が苦痛で、こうも落ち着きのない自分はどこかおかしいのではないかとずっと悩んできたと綴っている。

 作中で、ある少年が仮谷に向ける「僕たちはみんな、欠陥品なんじゃないですか」という言葉は、作者自身の問いかけでもあるのかもしれない。

人間を書きたいから復讐させていいのか悩んだ

 本書はタイトルが示すとおり復讐の物語でもある。

 少年Aに我が子を殺された女性・美雪による復讐。さらに美雪に復讐しようとする人物もあらわれる。その復讐者の正体は本作のミステリー面の肝である。

「ミステリー小説で復讐は人を殺す動機として、当たり前にでてきますよね。だけど実際のところ、どれだけ相手が憎くても、復讐のために殺人を犯すなんてそうそうできるものでしょうか。いくらミステリーの世界とはいえ、人間は心情的にどうしても誰かの身体を傷つけることに抵抗感を覚えてしまうと思います」

 第二の復讐者にも“目には目を”的な行動をとらせるか、とらせていいのか、悩みに悩んだ。他に選択肢はないだろうかと16パターン考えた。なぜそんなに悩む必要があったのか問うと、「人間を書きたいから」と新川氏は言う。

「さっき話した、ストーリーのために人間を動かすか、人間を書くうちにストーリーができてくるか、ともつながっています。ミステリー作家にはミステリーから人間ドラマを書く人と、人間ドラマからミステリーを書く人の二種類いると思います。前者の場合、復讐という目的に向かって人間ドラマを考えますが、後者の場合は書いていくうちに、復讐すべきか否か、という問いに向きあわざるを得なくなる。復讐をさせるために、そして殺されるために登場人物を動かしているわけじゃないから。ミステリー的なカタルシスを考えると、すっきりしないかもしれませんよね(苦笑)。でも、いいんです。これが私の書き方なんです」

 加害者と被害者、双方の関係者に少年院の職員など、いろいろな人物の視点によって語られる復讐と贖罪の物語だ。

「私は少年側の心情に自分を重ねて書きましたが、彼らの親や、家族以外の大人の気持ちに共感して読む方も多いと思います。社会に適応できない子たちに私たち大人ができることはなんだろう──なんて読み方もできるように書いたつもりです」

 先ほど引用した「僕たちはみんな欠陥品」という台詞には続きがある。

「欠陥品でも生きていかなくちゃいけないですからね」

しんかわ・ほたて●東京大学法学部卒業後、弁護士として勤務。第19回『このミステリーがすごい!』大賞を受賞した『元彼の遺言状』で2021年、作家デビュー。同作と『競争の番人』はTVドラマ化。近刊に『女の国会』『ひまわり』ほか著書多数。今年は学園ファンタジーに挑戦。

『目には目を』
新川帆立 KADOKAWA 1870円(税込)
重い罪を犯し、少年院で出会った6人の少年。退院後はそれぞれに社会復帰していたが、ひとりの少年が被害者遺族に殺される。事件を追うルポライターは残りの少年たちに接触し、インタビューをまとめた本を出版しようとする。その真意は、かつての仲間を密告した裏切り者を炙りだすこと。しかし彼らが語る証言は微妙に食い違っていて……。

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