安部若菜 エッセイ連載「私の居場所は文字の中」/最終回「責任だけが増えるけど」
公開日:2025/2/7

足が早くなりたい。
頭が良くなりたい。
皆に好かれたい。
あそこに遊びに行きたい。
お金を稼ぎたい。
世の中に認められたい。
小さい頃から、こんなあれしたいこれしたいはあるのに、それを達成するための”やりたいこと”は全然生まれない。
思い返せば、もっと小さい頃の方がやりたいことがたくさんあって楽しかった気がする。
例えば小学3年生の時。学校でピアノが流行ったとき、私も習いたい!と何度もお願いしてピアノの先生をつけてもらった。
何を教わっていたかは全く記憶にないが、楽譜を見ながら色んなことを書き込んで、色んなメモでびっしりになった ”ピアノを習ってるっぽい” 楽譜が嬉しかった記憶がある。
ただピアノを始めた最初は楽しくて仕方なかったものの、だんだん練習が面倒くさくなっていった。
隔週だったか、月1だったかでピアノの先生が家に来てくれたが、その期間ロクに練習していなかった私は当然何の成長も見せられない。
そんな私を見て隣でため息を吐く先生が怖くて、だんだんピアノの時間が苦痛になっていった。
ピアノが大好きだったきちんと振り返ったら記憶の中で美化されていただけで、楽しいのは最初だけだ。
あとは、トランポリン。
学校で流行っていたから習いたくて、何度もお願いして通わせてもらった。
初めてのレッスンは大きなトランポリンに乗るのも楽しくて、自由にピョンピョン跳ねて、夢みたいな時間だった。
何回か通ってもまだ楽しかったけど、所詮地元で行われる小学生向けの習い事。ジャンプして開脚とか、ジャンプして膝を抱えるとか…。
単純なものしか教えてもらえず、跳べるのも順番待ちで何回かだけ。
だんだん飽きてきて、期間の半年が終わったら契約更新せず即終了。
こうして見ると、小さい頃の方が楽しかったなんてのはイメージだけで、当時も色んな不満を抱えていたみたいだ。当時の楽しさは、“いつやめてもいい”という責任の無さから来ていたのかも。
それでも今と同じような悩みや面倒臭さとともに成長してきたのだから、大人になって何かを失った訳でもないと思うと、ちょっと心が軽くなる気がする。
振り返ると小さく感じる悩みもあれば、時が経てば経つほど形を変えて、呪いみたいに刻み込まれていく悩みもあったり。
でも、大抵の悩んでたこと・大変だったことは、後になってみれば楽勝だったように感じることが多い。
このダ・ヴィンチWebでの連載も一旦今回がラスト。
小説『私の居場所はここじゃない』発売に向けて、小説の内容に絡めたことを書いたり、日常のことを書いたり……。
書いていた時は「何書こう⁉︎」と悩んだ時もあったけど、振り返ってみれば楽しく書いて楽勝だったような気さえしてくる。
試行錯誤しながら結構内面を赤裸々に書いたので、これさえ読めば「安部若菜」の数割は掴めそう。読み返しなんかも、いつでもぜひ。
前回まで全て「ですます調」で書いていたのに、今回だけ急にエッセイ面して書いたもんだから、慣れずにギクシャクしてしまいました。
またいつかトピックスがあればこちらにも掲載いたしますので、またいつかお会いしましょう。お付き合いくださりありがとうございました!
安部若菜の最近読んだ本

『カラフル』 森絵都
何回読んだだろう?というくらい読み返した小説です。初めて出会ったのは多分小学4年生くらい。
当時は大人にも長く愛される名作とも知らず、ただ図書館にあった本の一冊として手に取りました。
あらすじは、
“一度死んだ「ぼく」は、天使のプラプラに「おめでとうございます、抽選にあたりました!」と言われ、「前世の過ちを償う」ために下界で誰かの体に乗り移って過ごす「ホームステイの修行」をおこなうこととなる。「ぼく」の魂は「小林真」という中学3年生の少年に乗り移り、「修行」が始まった。”
という、ちょっとファンタジーな雰囲気。
ヤングアダルト向けな小説で読みやすく、一回目は素直に「おもしろ!」と感じつつも、主人公の男の子「小林真」は中学3年生だから、少し大人な遠い世界の話だと思っていた、気がします。
それから2回目は、高校3年生の時。NMB48に加入して以来、読書から結構離れていた時期に、なんとなく図書館で借りた中にこの本が。
「あれ、これ多分昔読んだことあるよね?どんなんだっけ?」と思いつつ読み進めると、断片的な記憶とともに、昔読んだ時に感じたワクワクが呼び起こされました。
そして、めちゃくちゃ泣きました。
真の心情が痛いほど分かるようになり、真に自分を重ねながら読み進めました。
家族との関係、友人との関係、自分との関係も、小説は変わっていないのに、自分の周りはまるきり変わっていて、それが読書体験にこんなに影響を及ぼすのかと初めて気づいた瞬間でもありました。
それからは家の本棚に迎えた『カラフル』をたまに読み返しています。その時々で響くポイントが変わったり、面白いものです。
生きることが辛くなった時に思い出したい言葉もたくさんあって、間違いなく私の人生に影響を与えた1冊です。
私はしょっちゅう世界をグレーに感じるのですが、この本を読むと些細なことも色づき始めます。
自分の世界もカラフルにしたくなるし、前向きにさせてくれる。人生を一緒に歩んでいきたいと思える小説です。
<第13回に続く>