北方謙三、不朽の剣豪小説第2弾『降魔の剣』。穏やかに暮らす主人公に、薬物を巡るお上の陰謀が降りかかる【書評】
PR 公開日:2025/2/13

北方謙三の名作が5カ月連続刊行となり、蘇っている。『降魔の剣 日向景一郎シリーズ 2<新装版>』(北方謙三/双葉社)は、その第2弾だ。
前作で、主人公の若き青年・景一郎は父を斬り、一つの“宿命”を果たした。しかしその道程は血に塗れ、まさに修羅の道。その後、景一郎がどのような生活を送るのか全く想像がつかなかったのだが、およそ5年後を描いた本作で、なんと彼は皿や壺を焼き生計を立て、一見、穏やかな日々を過ごしている。
前作の殺伐とした空気との違いに、読者はおそらく、少々面くらいながら読み始めるのではないだろうか。
もう少し詳しく、あらすじを紹介しよう。
江戸に戻った景一郎は、父の友人であった鉄馬と、父の子である森之助と薬種屋の杉屋清六の寮で過ごしていた。
景一郎は日がな一日土を練り、よく売れる焼き物を作って杉屋から重宝されている。鉄馬は森之助の面倒を見ながら、惚れた女も出来てそれなりの生活をし、幼い森之助は日々剣の鍛錬や書見を行い、剣士の子として育てられている。
景一郎は仙人にでもなってしまった様相で、「土の声を聞きたい」と焼き物を作り続けており、周囲の人はやや不気味に思いながらも、どこか魅了されていた。
物語は、同心の新兵衛がとある事件をきっかけに景一郎たちと知り合ったことから始まる。当初、単なる刃傷沙汰に思われたその事件は、思わぬ闇を見せて拡大する。阿芙蓉(あふよう/俗にアヘンのこと)を巡り、大藩と幕府の思惑が絡み合う大事件だったのだ。
新兵衛や鉄馬を通し、その大事件の真相に迫るのが、本作の読みどころの一つである。前作が景一郎の恐ろしいまでの強さや、秘めた獣性に圧倒されるような展開だったのに対し、本作は「謎」の要素が加えられ、知的な楽しみ方が強まった内容になっていると感じた。
もちろん剣豪小説ならではの剣戟シーンも、読みどころとしてしっかりとある。
終盤での闘いの場面は、圧巻だった。景一郎は槍や銃まで携えた32人もの敵に一人で挑むのだが、彼の見えている世界が常人とは全く異なることが分かり、読んでいてゾクゾクした。「景一郎が真に戦っている相手は、ここにはいない」と分かるのだ。もはや彼と対峙できるのは生きている人間ではないのかもしれない、という人間を超えた領域。
ともすれば少年漫画のようなフィクションさ――リアリティの無さを感じてしまいかねない、大多数の敵との戦いが、景一郎の脳内を知ることで妙に納得させられてしまった。こちらはぜひ読んでみて、「彼の領域の戦い」を体感してみてほしい。
ちなみに1巻を読んでない方でも、新兵衛という読者と同じ情報量の登場人物の視点があるため、新たな物語として読めるようにもなっている。第3巻はどのような展開になっているのだろうか。また、楽しみに待ちたい。
文=雨野裾