氷室冴子の代表作『銀の海 金の大地』がついに復刊。古事記を基にした古代ファンタジーで描かれる、理不尽に立ち向かう姿【書評】
PR 公開日:2025/2/7

すぐれた物語というのは、こんなにも時代をこえて瑞々しい輝きを放つものなのか、と小説『銀の海 金の大地』(集英社オレンジ文庫)を読んで圧倒された。2008年、51歳という若さで亡くなった氷室冴子さんの代表作であり、ついに復刊ということで各所が歓喜で沸き立った、国内ファンタジー史に刻まれる名作。『古事記』を下敷きにした古代の物語ではあるけれど、14歳の少女・真秀が理不尽に立ち向かいながらも運命を切り開いていくその姿が、心の躍動が、今を生きる私たちとも重なって夢中にさせられてしまうのだ。
真秀の家族は、母の御影と兄の真澄の二人だけ。けれど「神々の愛児(まな)」といわれる御影は、5歳の子どもと同じ知恵と言葉しかもたず、まともに生活することもかなわない病に冒されている。26歳の真澄は誰もが目を奪われる美青年だが、生まれつき聴覚も視覚も奪われていて、不思議な霊力によって真秀と心で会話することはできるものの、やはり真秀にとっては守るべき対象だ。子どもの頃から二人を養うために働いてきた彼女はずっと、味方を求めてきた。会ったこともない父親が権力者であるために、預けられた息長一族の邑(むら)にはしぶしぶ住まわせてもらっているものの、よそ者として邪険にされる。異母兄である丹波一族の首長・美知主(みちのうし)は、気まぐれに優しくするだけで、居場所にはなってくれない。
「あたしはさみしいのよ」と真秀は言う。家族以外に頼れるものはない。その家族も、真秀が強くあり続けなければ、一緒にいられなくなるかもしれない。虚勢を張り、弱音を吐かず、身を切るようなさみしさに悲鳴をあげる真秀の言葉は、冒頭から私たちの心を突きさす。〈同じ血はよびあうわ。温かいものを通わすわ。佐保にいきたい!〉と母の生まれた一族を求める彼女の言葉も、同族だからといって味方になるわけではないと知った大人になった今は、よけいに胸を衝く。
ひとつだけ、彼女が新しい家族を得る方法がある。美しく育った彼女を求める、男たちに身を委ねればいいのだ。けれど父に愛されたはずの母が捨て置かれているように、それはけっきょく新しい孤独を生み出すだけの行為である。異母であればきょうだいも夫婦になれた時代、美知主の弟で息長の首長である真若王も真秀を物にしようと目論むが、真秀は決して自分の尊厳を売り渡そうとしない。その気高さゆえに彼女はどんどん窮地に追い込まれていくのだけれど、慟哭しながらも己の力で生き抜こうとするその姿に、私たちは心を寄せながら、ページを繰る手を止められなくなる。
同母兄妹が恋をした伝説をもち、同族内での婚姻をくりかえしてきた佐保の一族と、やがて真秀は出会うことになるのだけれど……真澄との絆を描く物語かと思いきや、2巻で登場するもう一つの運命の出会いが、彼女の運命をさらに大きく揺るがしていく。ああ、はやく続きを読みたいし、一人でも多くの読者にその出会いがもたらす衝撃を味わってほしい。全11巻が毎月1巻ずつ刊行される2025年、退屈することはなさそうである。
文=立花もも