安野貴博「テクノロジーで誰も取り残さない東京をつくる」デジタル民主主義の未来像は?【書評】
PR 公開日:2025/2/13

AIエンジニアでSF作家の安野貴博さんが、新著『1%の革命 ビジネス・暮らし・民主主義をアップデートする未来戦略』(文藝春秋)を上梓した。
安野さんは、2024年の東京都知事選挙に「完全無名の状態」で初出馬。選挙活動初日、渋谷駅前での人生初の街頭演説に集まったのは「10名程度で、そのうち6名は知人」と振り返るが、AIを活用した選挙戦により、結果として56名の候補者中で得票数5位となる15万4638票を獲得した。その数字は東京の有権者1135万人のうち、約1%にあたる。
現在、東京都がDX推進のために設立した団体「GovTech東京」でアドバイザーも務める安野さんの新著ではデジタル民主主義のほど近い未来像を提示。「テクノロジーで誰も取り残さない東京をつくる」と掲げた選挙活動を経て、テクノロジーを活用した、より広く正確な民意の収集と反映をめざす。
■不妊治療では「オンラインで契約書を交わす仕組み」を応用
市民の生活を支える行政は、多くの課題を抱える。経済、子育て、教育、医療、防災…と分野は様々だが、課題解決のための戦略は「民意とテクノロジーの力でリアルに実装可能」だと、安野さんは主張。例えば、子育ての分野では1人目の子どもをもつ上でのハードルとなる不妊治療の負担軽減を構想する。
選挙戦の当時、安野さんは自身のマニフェストへの意見を、ソフトウェア開発プラットフォーム「GitHub」上で有権者に求めた。
子育ての分野では「不妊治療へのアクセスの悪さ」が話題になったという。不妊治療では戸籍謄本などの証明書やパートナー双方が署名及び捺印した合意書など、とにかく提出書類が多い。これらも治療の開始・継続を妨げる隠れた要因とする安野さんはオンラインで契約書を交わす仕組みを応用して、提出書類のオンライン化や統一フォーマットの促進を提言する。
東京都在住ではないが、本稿筆者も過去に妻と共に取り組んだ不妊治療で苦労した経験がある。その手間をわずかでも減らせるなら「1人目の子どもをもつ」というハードルを、下げられるのかもしれない。
■都民が直接「政治に参加できる」仕組みを
本書の軸にあるデジタル民主主義とは「テクノロジーの力によって、直接的で民主的な参加を拡大し、多様性のある社会への政治プロセスを実現」する考え方だという。
行政に私たちの声を届ける。じつは世界4000以上の都市では、行政の予算編成についてじかに市民の意見が反映される「参加型予算編成」が導入されていると、本書で初めて知った。
例えば、ポルトガルのカスカイス市では市民が毎年の予算案を協議し、投票によって決定する仕組みを市議会で導入している。他にも、フランスのパリでは市の年間予算の5%が市民参加型予算として割り当てられているなどしており、これらの仕組みによって、行政側が決定のプロセスを公開しなければならず、透明性と説明責任を自然と求められる環境ができあがっているという。
では、どのように実現できるのか。安野さんが提言するのは「都民が政治に参加できるプラットフォーム」の構築だ。
選挙戦の当時、安野さんはYouTube Liveで有権者の声に応えるAIチャットボット「AIあんの」を運用していた。同様のシステム「都議会AI」で市民に向けて行政がいつでも情報公開できる仕組みを作り、Webフォーラムで市民からの政策案を拾い上げる、東京都の将来像を安野さんは構想する。
全編を通して感じられるのは、いずれの課題も東京都に限った話ではないということだ。本稿筆者は埼玉県在住だが、日本の首都である東京都でデジタル民主主義が実現するのならインパクトは絶大で、いずれ、各地方にも波及するであろうことは想像にたやすい。安野さんによる「1%の革命」は、たしかにその試金石だった。
文=カネコシュウヘイ