青山美智子と田中達也の豪華すぎるコラボ! 「作品を見て小説を」「小説を読んで作品を」互いにインスパイアして完成した、楽しさあふれる1冊【書評】

文芸・カルチャー

PR 公開日:2025/3/12

遊園地ぐるぐるめ青山美智子田中達也/ポプラ社

 2025年本屋大賞にノミネートされた『人魚が逃げた』(PHP研究所)をはじめ、青山美智子さんの小説を彩る装画を数多く手がけてきたミニチュア作家の田中達也さん。最新作『遊園地ぐるぐるめ』(ポプラ社)の始まりはいつもと逆で、田中さんの作品からインスパイアされて青山さんが小説を書き、そこからさらにイメージをふくらませたミニチュアを田中さんが撮影して各章の終わりに添えるという、新しい試みの連作短編集である。

『遊園地ぐるぐるめ』より

 舞台は、なぜか「ぐるぐるめ」という通称で親しまれている、山中青田遊園地。ここからすでに「青山」と「田中」のコラボは始まっている。第一話のモチーフとなるのは、表紙でも顔を覗かせている、ハンバーガーのメリーゴーランドがメインのミニチュア写真。からの、大学3年生の健人が、ハンバーガー屋のアルバイトで出会った1つ年下の結乃をデートに誘い、迎えた当日の初々しい緊張感が展開されていく。そんな始まりを読んで青山さんのデビュー作『木曜日にはココアを』を思い出す人も、多いのではないだろうか。

 健人と結乃の「ある瞬間」を目撃した人たちが第二話の語り手となる、その構成もふくめて本作が『木曜日にはココアと』に通じるところがあるのは、おそらく意図的だろう。田中さんの装画とともに小説家デビューした青山さんにとって、本作は原点回帰、というより作家としての軌跡を改めてふりかえるものでもあったのではないだろうか。少なくとも読者の私にとっては、『木曜日にはココアを』のあの人たちが再登場したうれしさとともに、改めて「ああ、青山さんの小説って好きだなあ」と思わせてくれる作品であった。

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 青山さんの作品は、優しい。誰もがもつ自信のなさや臆病さ、妬みや怒りなど他人に対する一方的な感情を抱いてしまう弱さを凌駕して、一歩踏み出そうと思える「好き」が描かれている。その想いは、健人が結乃に向けるような恋心だけでなく、友人や仕事、今ここに見えている景色など、あらゆるものに向けられている。そのまなざしがあるからこそ、田中さんの作品から思いもかけないモチーフを掬い上げることができるのではないかと思う。

『遊園地ぐるぐるめ』より

 写真を見て、物語を読むと、「そんな一部分から、こんな物語が!」と演出に多々驚かされる。そこから生まれた田中さんのミニチュアは、次の物語への橋渡しのような雰囲気もあって、世界観がぐるぐると循環してめぐってまわっていくから「ぐるぐるめ」なのかなあ、なんて想像したりもできる(ちなみに「ぐるぐるめ」の理由は物語のなかでちゃんと明かされるのだけど、これまた青山さんの過去作品につながるものがあって、うれしい)。

 人が不安になるのは、臆病になるのは、この世界になんの約束事もないからだと、本作で語られる場面がある。だけど「そんな約束事のない世界で」私たちは誰かに、何かに出会い、今を紡ぎ続ける。決まりきった約束などないからこそ、まだ見ぬ明日への期待をふくらませることもできる。それがいかに素敵なことなのか教えてくれる青山さんの物語に、寄り添いながら遊び心を弾けさせる田中さんのミニチュア世界。最高のコラボレーションの中で、私たちは日々を生きる光を見つけることができるのだ。

文=立花もも

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