北海道の交通事故と東京の殺人事件を結ぶ真相とは? 『二人の嘘』に次ぐ待望の新作長編ミステリー『流氷の果て』【書評】

文芸・カルチャー

PR 公開日:2025/3/24

流氷の果て一雫ライオン/講談社

流氷の果て』(一雫ライオン/講談社)は、あるセンセーショナルな事故に巻き込まれてしまった若者たちと、そこから派生した事件の真相を追う刑事たちを描いた長編ミステリーだ。

 1985年、北海道・知床半島ウトロで初日の出を見ることを目的に組まれた「北斗流星号バスツアー」。札幌を出発し、大晦日の深夜の峠道を走っていた豪華バスは、吹雪のなか崖から転落する。それから時が流れた1999年、東京・新宿で不可解な身元不明の遺体が発見された。時を同じくして、政界の重要人物の殺人事件も起こる。定年退職を控えた刑事・真宮が捜査を進めていくなかで、それぞれの事件は一つの真相へと導かれていく。

 本作はミステリーとして読み応えがあるだけでなく、過ぎ去った時代の変化をリアルに味わえるのも魅力だ。1999年から2000年へ。日本の経済成長率が下り坂に入り、IT・インターネットがようやく普及し始めた頃。本作には当時を思い起こすさまざまな情景や時事、カルチャーが描かれており、2000年を迎えたばかりの世界の、不安と期待が入り混じった混沌を懐かしく思い起こすことができる。

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 過ぎ去ってゆく時代と重ねて、味わいたい登場人物がいる。物語の中核を担うベテラン刑事・真宮だ。自らの足を使った捜査を徹底し、相手の反応を見ながら着実に情報を得ていく。一方、インターネットを使ったデータ検索などには疎い。根からの古風な刑事だ。そんな真宮と対照的に描かれるのは、バディを組む若手刑事・香下である。甘い香りのボディクリームをつけ、眉を整えた刑事。この特徴だけで二人の違いが伝わるだろう。香下は真宮の捜査方法や生き様を理解できないが、共に事件の真相を追ううちに、刑事の矜持のようなものを真宮から継ぐことになる。二人の関係の変化は、本作の見どころの一つだ。

 また、私が特に心を打たれたのは、物語におけるラジオ番組の存在感である。インターネットがまだ十分に普及していない2000年頃は、テレビ番組がメディアとしての圧倒的な存在感を誇っていたが、ラジオ番組が担っていた役割もある意味大きかったと思う。ラジオ番組だからこそ築かれる濃い関係や、メッセージ募集といった独特の文化が、物語の展開にも効いている。

 私は本記事で、本作の主人公と言っても過言ではない若者たちについて、あえて触れていない。非常に魅力的であるということだけは、伝えておきたい。本作はミステリーに分類されると思うが、登場人物の生き様や信念に圧倒される読後感を考えると、エモーショナルな人間ドラマこそ推すべきポイントなのかもしれない。その感動をより多くの読者に味わっていただきたいからこそ、興奮さめやらぬ感想はここで締めよう。

文=宿木雪樹

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