「高学歴」かつ「発達障害」の人の苦悩とは? 当事者のリアルに迫る貴重なケーススタディ集【書評】

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PR 公開日:2025/3/19

高学歴発達障害 エリートたちの転落と再生岩波明/文藝春秋

高学歴発達障害 エリートたちの転落と再生』(岩波明/文藝春秋)は、知的レベルが高く、高学歴や高偏差値を得ながらも、発達障害が遠因となって挫折や失敗を続ける当事者の症例や治療の経過をまとめている。精神科教授として発達障害の患者と長年向き合ってきた岩波氏の見解や考察も含め、発達障害について理解を深めるのに役立つ一冊と言えよう。

 一章では、そもそも発達障害とは何であるかが解説される。本書は発達障害の中でも実地臨床において頻度の高いADHD、ASDを主に扱う。近年、発達障害当事者による発信は増えつつあり、ADHDやASDといった言葉も以前に比べれば一般化してきていると感じる。一方で、断片的かつ主観的な経験談から発達障害について正しく理解するのは難しい。発達障害の定義や特性についての理解の土台を固めるうえで、一章の役割は大きい。

 二章以降は、高学歴という共通点がある患者にフォーカスし、数々の事例が紹介される。中学校、高校、大学、社会人と、人生において経験する環境ごとに事例が整理されており、それぞれどんな要因が発達障害当事者の人生において弊害となり得るのかがわかりやすい。

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 発達障害の特性がいわゆる「生きづらさ」につながることは多くの人が知ることだと思うが、具体的にどんなことが当事者の周囲で起こるのかまで掘り下げられる機会は少ない。本書の大半を占めるのは、発達障害当事者の家族構成や所属する学校・会社の特徴、発達障害によってもたらされる特性の記録だ。これらを読むことで、読者は発達障害のリアルに迫ることができる。

 また、本書の特徴は、知的レベルにおいては問題がない、むしろ優秀と言える発達障害当事者にフォーカスしていることである。彼らは適切な治療につながり、自身の特性を理解することで復活・再生を遂げる可能性が高い。家族の献身的なサポートを受けること、特性が強みとして活きる環境に身をおくことなどが、彼らの人生に大きな変化をもたらす。本書は周囲の人間が発達障害当事者をどのように受け止め、どう対処すべきかにも着目している。

 最後に、本書を手に取っていただきたい方について書きたい。発達障害は生活に困難をもたらす重大な要因ではあるが、周囲の理解や柔軟な対応によって解決に向かうことも多い。そのため、教育機関に身をおく方、会社においてマネジメントを担う方、発達障害当事者の家族、あるいは友人・知人といった広い範囲の方々に、本書を読んでいただきたいと思った。

 本書ではたびたび「ドロップアウト」という言葉が登場するが、社会という輪の中から一度でもはじき出されてしまった者が再び社会に戻ることは、そう容易ではない。社会全体における発達障害への理解が進むことが、一人でも多くの再生のきっかけを生み出すことを願う。

文=宿木雪樹