暴走AI vs. AIに仕事を追われた天才女性プログラマー! すぐ先の未来を描く興奮と緊張のノンストップエンターテインメント小説【書評】
PR 公開日:2025/3/18

興奮と緊張でバクバクと心臓が鳴った。盤石といわれたセキュリティAIの暴走と、そのAIにどっぷり依存していた日本経済の危機。それに立ち向かうは、かつてAIに仕事を追われた女性プログラマー——そんなあらすじを知った時から気になってはいたが、寝る間も惜しんでページをめくらされるほど、この本に惹き込まれるとは思わなかった。その本とは『アイギス』(葉山透/ポプラ社)。暴走AIとの戦いを描くリベンジ×ノンストップエンターテインメント小説だ。
主人公は、スーパーコンピューターの開発業務に従事していたプログラマー・葵。入社して8年、それなりの役職を得て、それなりの成果も築いてきたが、上層部の「スパコンの設計・開発は今後、AIにやらせる」という方針転換によって突然リストラにあった。昔の同僚で、元恋人の天野は、AI開発のスタートアップ企業を創業し、世界初のAIによるセキュリティシステム・アイギスを生み出したというのに……。それから2年、フリーランスとして細々と仕事を請け負っていた葵のもとに、警視庁から出向するデジタル庁危機管理部門の深町が訪ねてくる。日を追うごとに進化を遂げてきたアイギスは、驚異的なセキュリティの高さを証明し、今では日本中の金融機関で採用され、最強のセキュリティシステムと言われているが、なんとそのアイギスが突然不具合を起こし、誰にも制御ができないのだという。さらに、開発者の天野は失踪。残されていたのは、「猶予は10日」という脅迫文と、かつて葵が天野に送ったポストカードだけだった。
アイギスはどんなハッカーでも破れない「最強の盾」として信頼されてきたAIだ。だから、その暴走を止めるのは一筋縄ではいかない。おまけに、アイギスはずば抜けた学習能力の高さで瞬く間に成長していくのだ。だが、どうにかその暴走を止めなくてはならない。アイギスはたった8時間止まっただけでも日本経済に数千億から兆にも及ぶ経済損失を与えるという。このままアイギスの制御を取り戻すことができなければ、日本の崩壊は確実だろう。なんという緊迫感あふれる状況なのか。AIの現状を踏まえて緻密に描かれたこの物語はリアリティ抜群で、だからこそ、手に汗握らされる。
だが、AIがいくら優れていたって、人間たちだって負けていない。自信を失ってはいるが、葵はかなりのキレ者。アイギスを生み出した天野には及ばないが、天才といっていいほど、才能にあふれた女性だ。プログラミングの腕はもちろんのこと、交渉術にも長け、あらゆる人の心を次々と掴んでしまう。そんな葵に、気づけば私たちも心奪われてしまう。そして、この物語は他の登場人物も魅力的なのだ。アイギスに立ち向かうべく葵が仲間として集めたのは、死神のアバターを使う正体不明の違法ハッカーに、絵描き、老役者。異色というよりは色物ぞろい、門外漢ばかりのメンバーでどうやってアイギスを追い詰めていくのか。予想もつかない怒涛の展開の連続に、心の高揚をおさえきれない。
急き立てられるように、焦るようにページをめくった。タイムリミットは10日。その間に、アイギスを止めなければならないと、葵とともに全力で走り続けているような気分だった。いつだって冷静沈着、感情をみせない葵が、ときにみせる情熱、怒りに、私たちの胸にも熱い血が脈動する。人間はAIに勝てるのか。いや、勝たなければならないのだ。それぞれの道のプロフェッショナルたちが決死の思いで挑む戦いから目が離せない。
AIが何かと話題の今だからこそ、すぐ近くの未来を描いたこの物語は他人事ではいられない。近い将来、私たちはもっとAIを当たり前に活用するようになり、AIは社会の基盤さえ担うようになるだろう。だから、この物語で描かれたようなAIの暴走が起きたって何もおかしくはない。だが、AIを恐れるのも違う。では、私たちはどうすればいいのだろうか。葵や、他の個性的な仲間たちの活躍と成長は、私たちのこれからにヒントを与えてくれるだろう。……ああ、こんなにもエキサイティングな読書体験は久しぶりだ。AIが広がりつつある、今だからこそ読むべき、今一番アツい1冊を、あなたの傍にも是非。
文=アサトーミナミ