玉置玲央エッセイ「江の島が自分の中で居場所になっていった」怪我した心を救ってくれる場所/では、後ほど
公開日:2025/3/29
大河ドラマ『光る君へ』藤原道兼役での名演も記憶に新しい俳優・玉置玲央さんが、40歳を記念した自身初のフォトエッセイを出版。
全編書き下ろしのエッセイ40編に加え、自身の趣味であるカメラで撮影した写真や、演劇の街・下北沢、プライベートでの癒しの場所・江の島で撮影したグラビアも収録されています。
さらに、10代の頃からの憧れの存在・向井秀徳(ZAZEN BOYS)さん、古くから交友があり事務所同期の松居大悟(ゴジゲン)さん、舞台『ダブル』で共演した役者仲間・和田雅成さんとの対談や、自身が20代の頃に書き下ろした未公開戯曲『どくはく』も必見。
役者として生きてきた日々やこれまでの人生を振り返り、自己を深掘りした本書には、著者が豊かな経験を通して得てきた喜びや苦悩、教訓のすべてが詰まっています。俳優・玉置玲央さんの人間的な魅力をひも解く貴重な一冊を、ぜひお楽しみください。
※本記事は『玉置玲央フォトエッセイ では、後ほど』(玉置玲央/KADOKAWA)から一部抜粋・編集しました

(玉置玲央/KADOKAWA)
YUMEGIWA LAST BOY状態
気が付けば江の島周辺にいる、なんてことが若い頃はよくあった。
打ち上げ終わりにテンションで。どうしても独りになりたい時に。仲間と青春するために。写真を撮る為にカメラ片手に。意中のあの子との逢瀬に。
そういう場所だ俺にとって江の島は。何というか、非常にちょうど良い場所なのだ。都心からは離れていてでも極端に田舎ではなくて、旅行気分と現実逃避を存分に味わえて。『隠れ家』というか。どうしようもなくなった時はよく江の島に逃げ込んでいた。そうして段々と愛着が湧いて自分の中で居場所になっていった、そんな場所。だから今回このフォトエッセイでの撮影場所に提案させていただいたのでした。
江の島周辺は漫画やアニメ、映画のいわゆる『聖地』なんですが、俺にとってはまず何より、松本大洋先生の漫画『ピンポン』の聖地です。実写映画、それから後年のアニメでもこれでもかと江の島周辺が描かれています。弁天橋から川を眺めたり、『この星の一等賞になりたいの卓球で俺はそんだけー!』の七里ヶ浜を歩いたり、片瀬諏訪神社の下社でヒーロー見参したり、同じく上社で階段眺めたり、『スラムダンク』のファンの方々を尻目に某高校前の坂道をウロウロしたりしてました不審者ですね。懐かしいな。それもあって相当通ったんですよね。
江の島は写真を撮るのにうってつけで、江島神社の境内の猫や、サムエル・コッキング苑のお花とか、そしてなんと言っても海と夕焼け。このエッセイの表紙に使っている写真は俺の中で『秘密の場所』と呼んでいるところで撮った写真で、まさしく独りになりたい時によく訪れてました。時間帯や季節によっては全然人が来ない堤防で、そこから見る夕焼けとか星空が大好きなんです。江の島に来る一番の理由。撮影の日は過去見たことがないくらい見事な夕焼けが到来してラッキーでした。
江の島を正面に見て、江の島弁天橋を渡らず右に向かえば『新江ノ島水族館』が。昔は『江ノ島水族館』という名前で、ミナミゾウアザラシのみなぞうくんのショーが非常に有名でしたね。えのすいはクラゲの展示スペースが良くてずっといられちゃう。何も考えたくないって時、都心から離れてただただボーッとクラゲを眺めに行くの、マジでオススメ。
『居場所になる』って物凄く大事な感覚だと思うんです。最初の理由は本当になんでも良くて、あの撮影に使ってた聖地だから行ってみようとか、都内近郊で海見える場所どっかないかなとか、そんなんでいいと思うんですよね。それで身体じゃなくて心とかにでっかい怪我した時にさ、ふと、そういえばあそこに行ってみようって。なんでか知らないけどふと思うこと、あるじゃないか。全然確信じゃないそういう予感みたいなものに今なら乗れる、乗らなきゃいけないって突き動かされて。そうやって足を運んでいる内に少しずつ思い出と記憶が積み重なって、それがカサブタみたいになって愛着が湧く。治りかけの頃にそういえばって思い出したりなんかもして。居心地が良くなるとそこで自由に振る舞える余裕が生まれて、あっち行ってみよう、こんなことしてみようって思えるようになって。場所が自分を受け入れてくれる感覚。場所をどんどん信頼していく感覚。そんなのはこっちの決めつけでしかないんだけど。でもそれを手繰り寄せて、この場所なら自分を救ってくれるんじゃないかって祈って、その祈りが通じてしまった時にその場所が自分の居場所になるんだと思う。ありがとう、助かったよって思えた時に。
あの堤防で見る夕焼けの海。
九十九里の海岸。
えのすいのクラゲ。
そういうのが俺のカサブタだし救いで、だから江の島が好きなんです。
<第3回に続く>