「断捨離=モノを捨てる」は誤解?断捨離の第一人者・やましたひでこ×漫画家・カレー沢薫が語る、“断捨離の本質”とは【インタビュー】
公開日:2025/3/29

気が付いたら部屋にモノがあふれていた——。オタクと呼ばれる人たちにはよくある現象だ。好きなモノに囲まれた暮らしは最高。その一方で、心地よい部屋で暮らしたいという願望もある。時には、モノが増えすぎて家族や同居者から冷たいあしらいを受けることもあってつらい…。
『オタクの断捨離 捨てられないオタクを救済!』(KADOKAWA)は、そんなオタクたちに救いの手をのべる一冊だ。モノを集めるのが好きなオタクの部屋を訪問し、その実態を明らかにしつつ、断捨離を説いて救済していく。
本稿では、断捨離の第一人者で、本書の著者であるやましたひでこと、本書で漫画を手がけたカレー沢薫の対談を実施。ハッと腑に落ちるようなトークの内容は、オタクだけでなくオタクのパートナーを持つ人や、それ以外の人たちも必読!
※「断捨離®」はやましたひでこ個人の登録商標です。
●ノウハウはもういらない
——「オタクと断捨離」という一見相入れない存在に思える2つが合わさり、接点がなさそうな二人の共著というのが斬新な一冊ですね。
やましたひでこ(以下、やました):私はまずカレー沢さんにお礼を申し上げたいです。取材された方たちの資料をもとに文章を書いたのですが、それが、こんなすてきな絵や吹き出しになるなんて。1本目にいただいたのが“ひでこラップ”。韻を踏んでいて、抽象的な私の文章をラップとして受け止めてくれたことに感動し、これは間違いない、と。
カレー沢薫(以下、カレー沢):最初にテキストを読んだ時、すごく詩的というか、リズムがあるなって思ったんです。
——ハウツーをそのまま漫画に落とし込んだようなコミックエッセイをよく見かけますが、本書はお二人の世界観がコラボしたような雰囲気です。
やました:斬新で、毎回書くのが楽しかったです。私自身のアプローチも、相手の方に「捨てなさい」というのではなく、「どうなの?」と問いかけ、視点の変化を促す形なので。悩んでいる本人の気づきで視点が変われば、おのずと見える世界が変わり、今まで大事だと思っていたものが、実はそうではなかったことに気が付きますよね。
カレー沢:『オタクの断捨離』の登場人物はみんなオタクだから、当然モノを大切にしているだろうし、全員「何も片付かない」っていうオチになるのでは…と最初は思っていたんです。でも、やました先生のテキストを見て、「彼らに必要なのはノウハウではないんだな」とまず気づいて。断捨離って、やました先生がおっしゃったとおり、片付けたい気持ちを本人に促すというか、考えさせるきっかけになるものじゃないですか。一方でノウハウを求める人たちが読んで刺さるのかという不安もありましたが、割と受け入れられたようで良かったです。
やました:私自身、断捨離をノウハウだと思っていないんです。断捨離をしたいという方たちからノウハウやスキル、マニュアルをよく求められるけれど「それを他者に求めてどうするの?」と。
断捨離は密教的な思想がベースにあるので、コツを教えてと言われても「それは違いますよ、自分で考えましょう」としか答えられません。断捨離って、自分で気が付いて、考えて、行動を起こして、自分自身で体得していくもの。だから、じつはこの本にノウハウを求めるほうがアウトなんです。
——じつはこの本、「ノウハウではない」「自己啓発本に近い」と物議を醸しているようで。
やました:それでいいと思っています。巷の本は「たちまち」「すぐできる」とノウハウを教える本ばかり。簡単さが求められるんですよね。でも、捨てることって、じつは本当に難しいことなんです。人類始まって以来の課題みたいなものですよ。不要なモノへのこだわりは、執着なんだから。私自身は、オタクと断捨離が相入れないとは最初から思っていなかったんです。
「断捨離=モノを捨てる」とよく誤解されますが、断捨離とはモノとの関係を問いただすこと。いかにモノと仲良くなるかが本当のコンセプト。今の自分にとって心地よくないモノは何か?という問いかけをして、そこで不要となれば、捨てる。
オタクさんの場合も同じで、本来モノを愛でるのはいいことなんです。ただ、何が好きなのか、何が大切なのか、じつはわかっていない、なんてことがあります。好きなモノは大事にするはずなのに、放置されている。「愛=お手入れ」だと思うので、お手入れや整理整頓がされていないのなら、そこに嘘があるんじゃないの、と。