古賀史健「読書はさみしい作者とさみしい読者がつながる行為」。“書く/読む”を通して「ひとりの時間づくり」を勧める理由【『さみしい夜のページをめくれ』インタビュー】

文芸・カルチャー

公開日:2025/4/28

 2025年3月、古賀史健さん著『さみしい夜のページをめくれ』(ポプラ社)が発売された。本作は、2023年に刊行された『さみしい夜にはペンを持て』(ポプラ社)の第二弾にあたり、同シリーズは累計18万部を超えている。前作は「海のなか」を舞台に、中学生のタコジローが不思議なヤドカリおじさんと出会い「日記を書くこと」を通して成長していく作品だった。

 第二弾となる本作では、進路に迷う中学3年生のタコジローがヒトデの占い師と出会い「本を読む」という体験を通して、新たな変化が描かれている。また作中では、100冊ほどの小説や教養書が実名で登場しており、本書から読書に興味を持った人が次のステップに進むためのブックガイドとしての機能も持った作品となっている。

 ダ・ヴィンチWebでは、著者の古賀さんにインタビューを実施した。なぜ古賀さんは「さみしい夜」に書くこと、そして読むことを薦めるのか。これまでの読書体験や本への想いとともに、その考えを聞いた。

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明日が楽しみになる何かがほんのちょっとでもあれば、今日を生きる理由になる

――発売おめでとうございます! 前作『さみしい夜にはペンを持て』は伝えたいメッセージに付随するようにストーリーが存在した印象がありましたが、本作『さみしい夜のページをめくれ』は純粋にストーリーを楽しめる小説になっていて、次の展開が気になって一気に読んでしまいました。

古賀史健さん(以下、古賀):ありがとうございます。ストーリーを重視したのは、当初から考えていたことでした。前作は「日記/文章を書こう」というメッセージが明確で、基本的には「何か書いてみたい」という人のためにつくった本。書いてみたい人に対して、書くことの効果や、書き方を伝えることがひとつの目的でした。

 一方、本作のメッセージは「本って面白いよ」「本屋さんに行こうよ」というものなので、作者である僕の存在が見え隠れすると、校長先生の朝礼みたいな上からのお説教になってしまうのではないかという危惧があったんです。

――たしかに本をたくさん書いている著者から「本をたくさん読みましょう!」と言われても、鬱陶しいと感じる人も多いんじゃないかと思います。

古賀:そうならないためには、物語のなかでタコジローたちの体験として「本屋さんに行ったらめちゃくちゃすごい世界が広がっていた」とか、そこで生まれた彼らの感情を丁寧に書く必要があると思いました。メッセージはタコジローの肩ごしに見えるぐらいでいいかなって。それで今回はストーリーを重視した本になったんです。

――タコジローが本と出会うことによって、劇的に人生が好転したようなハッピーエンドが描かれないことも、説教臭くなくてリアリティがありました。

古賀:それだと怪しい健康食品のCMになってしまうので(笑)。前作も、タコジローが日記を書き始めたことで「今まで人生真っ暗だったけど、今はこんなにハッピーです」って結末にはなってないじゃないですか。書く前と後で何が変わったのかわからないけど、でも読み返すのがちょっと楽しみになった、という程度でしたよね。

 僕自身もそうなんですが、「明日が楽しみになる何か」がほんのちょっとでもあれば、今日を生きる理由になると思うんです。前作も本作も、そのほんのちょっとした変化を書いたつもりです。

――タコジローにとっての「ちょっとした変化」は日記を書くことであり本を読むことでしたが、「明日が楽しみになる何か」は別のコンテンツでもいいと思われますか?

古賀:もちろんです。もし僕が小中学生の時に本作を読んだら、映画に置き換えて読んだりしたんじゃないかと思います。大切なのは、大人が本気になって作った、学校で語られていないものを自分で選ぶこと。それを選ぶ場所は映画館でも、CDショップでも、フェス会場でも何でもいいんじゃないかな。

――あくまでひとつの選択肢として、本や本屋を挙げられた。

古賀:そうですね。映画や音楽、スポーツなどはそれぞれ専門のライターさんがたくさんいるので、その方々にお任せすればいいと思っていて。僕は僕にしかできないことというか、僕の持ち場についてお話しすべきだなと思って「本」を題材に選びました。

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