「子どもの想像がどこまでも広がる」お母さんをさがし、空や街に飛び出す“さかなのきょうだい”の絵本。「4・4・5」のリズムで読み聞かせ【書評】

文芸・カルチャー

PR 公開日:2025/5/2

さかなの きょうだい ドレミファソ堤大介:絵、武井史織:文/白泉社

 もし、お母さんがいなくなってしまったら——。さかなの5きょうだいがお母さんを探して旅に出る、かわいい冒険絵本『さかなの きょうだい ドレミファソ』(堤大介:絵、武井史織:文/白泉社)が登場しました。

 空や池、街に出かける5きょうだい。行った先々でお母さんに似たものを見つけるけれど、どれも違う。だんだん疲れてきて、悲しくなってきた時にたどり着いたのは…。助けあいながらお母さんを探すなかよしきょうだいの姿を、こちらも応援したくなるような絵本です。

「4・4・5」の心地よいリズムで読み聞かせ

 きょうだいの名前は「ドレミファソ」。いちばん大きなさかなが赤色、その次がみどり、3番目はシマシマ…。少しずつ大きさや色柄が違うのが特徴です。目で見るさかなの数と、耳で聞く「ドレミファソ」の音階は、どちらも5つ。

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 絵本のなかには「かあさん・さがして・とびだした」「かあさん どこどこ どこいった?」など「4・4・5」のリズムもちりばめられています。5きょうだいのドレミファソが話す、リズム感あふれる言葉。疲れて悲しくなって歌う場面もあります。一冊のなかに音楽や歌の要素があふれているのです。読み聞かせる時の声も、自然とリズミカルになりました。

 子どもにとってはこのリズム感が楽しいようで、わが家の息子は、「さかなの きょうだい ドレミファソ」と読んだ時に「どれがド? いちばん大きいのがド?」と言って、さかなを指さしながら、左から順に「ドレミファソ」と読んでみたり、右から順に「ドレミファソ」と読んでみたりして楽しんでいました。本書は3歳から楽しめる絵本だといいます。

お母さんに似たものを一緒に探そう

 5きょうだいがお母さんに“似たもの”を見つけるページでは、お母さんっぽいものがどこに隠れているのか、親子で探すこともできました。子どもが大好きな探し絵のようでもあります。

 ちなみに、この5きょうだい、なんと、水の中ではなく空を飛んでいるのです。お母さん会いたさに海を飛び出してしまったのでしょうか。そんな幻想的な設定に、子どもの想像はどこまでも広がっていきそう。その想像はやがて、クライマックスにつながっていきます。物語の後半にある大きな絵には、5きょうだいの喜びに満ちた開放感が感じられて、親子ともに心を突き動かされました。

最後に受け取るのは、家族の温かみ

 著者のひとりである堤大介さんの絵は、平面なのに動きを感じる描写力や、光と影を自在に操る奥行きのある世界観が魅力。5きょうだいのさまざまな感情を浮き彫りにして、シンプルな物語とかわいらしい絵に深みを加えます。まさに絵が語りだすようで、豊かな感性をくすぐられた子どもは、絵のタッチからもいろいろなことを感じ取ってくれるのではないでしょうか。

 堤さんは、ピクサー・アニメーション・スタジオを経て、最近はNetflixで配信された『ONI ~ 神々山のおなり』の監督を務めるなど、映像を通じて社会にも貢献するアニメーション作家。彼が携わった絵本『ダム・キーパー』をご存じの方もいるかもしれません。そして文を書いたのは、デザインで地域課題に向き合うDesign Jimoto発起人であり、東京・瀬戸内を拠点とするオテンバスタジオの代表でもある絵本作家の武井史織さん。本作は、2人の素敵な著者が世界を見つめる視点に、少し近づける絵本でもあります。

 お母さんを探して、空を飛ぶさかなたち。そして、冒険を終えた子どもたちが戻っていく場所は——。読み終えると、家族の温かみがじんわりと体を包みます。子どもはさかなたちに自分を重ね合わせ、大好きなお母さんや家族のことを思い出すのではないでしょうか。著者・武井さんのInstagramによると、まだ小さな娘さんもこの本を読んでいるとか。「自分は赤い大きな魚のド」と言い、「どこへ行くにも一緒」なのだそう。きっとお母さんのことが大好きなのだろうなと感じます。

 親にとっても、最後まであきらめずにお母さんを探し、少しずつ成長していくさかなたちの存在は、わが子を見守るようでした。読むたびに愛おしくて、胸がときめいています。

文=吉田あき

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