男の子でも女の子でもない、「ただの自分」で生きていく。孤独な気持ちを抱える人に寄り添う絵本『なにでもないもん』【書評】

文芸・カルチャー

公開日:2025/5/3

絵本ナビがおすすめする「NEXTプラチナブック」(2025年2月選定)から、ご紹介する一冊はこちら!

「わたしが なにでもなかったころ わたしは どんなものにだって なれた」。けれど……。毎月発売される新作絵本の中から、絵本ナビが自信をもっておすすめする「NEXTプラチナブック」。今回ご紹介するのは、『なにでもないもん』。男の子でも女の子でもない、孤独な気持ちを抱える子どもたちに向けて書かれたこの絵本、どんな内容なのでしょう?

NEXTプラチナブックとは…?

絵本ナビに寄せられたレビュー評価、レビュー数、販売実績など、独自のロジックにより算出された人気ランキングのうち、上位1000作品を「絵本ナビプラチナブック」として選出し、対象作品に「プラチナブックメダル」の目印をつけてご案内しています。

そして、毎月発売される新作絵本の中からも、注目作品を選びたい! そんな方におすすめするのが「NEXTプラチナブック」です。3か月に一度選書会議を行い、「次のプラチナブック」として編集長の磯崎が自信を持って推薦する作品を「NEXTプラチナブックメダル」の目印をつけてご案内します。

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「ただの自分」で生きていく。『なにでもないもん

わたしが なにでもなかったころ

なにでもないもん
作:少年 アヤ
絵:阿部 海太
出版社: 岩崎書店

みどころ

何の境界もなく、ただ自分がそこにいて、思うように振る舞っていたのは何歳の頃だったろう。好きなことを好きなだけして、人の目なんて気にしたこともなかったあの頃は。

「わたしが なにでもなかったころ
 わたしは どんなものにだって なれた」

誰しも自由だった子ども時代。けれど、それが突然失われてしまうことがある。自分は自分でいるはずなのに、ここにいるのは自分ではなくなってしまっているのだ。壁にぶつかり、何かがのしかかり、選ばなくてはならなくなる。

「おんなのこですか おとこのこですか
 まんなかですか」

何でもなかった頃の自分を取り戻そうと、「わたし」は勇気を持ってそこへ飛びこむと……。

「わたしが なにでもなかったころ」

どんなものにもなれたし、毎日好きなことを好きなだけやり、どこにだって行けた。

それなのに……。

「そのとき えらぶってことが
 たのしいことじゃ なくなりました」

自らのセクシュアリティをめぐる生きづらさと向き合い、エッセイや様々なメディアでその思いを発信されてきた少年アヤさん。「なにでもない」自分に戸惑い、苦しくて孤独な気持ちを抱える子どもたちに向けて書かれたのがこの物語です。

男でも女でもない、ノンバイナリーを自認するに至った少年アヤさんの葛藤を、画家の阿部海太さんが力強くも美しい絵で表現。絶望や悲しみを感じると同時に、絵本の中には、あたたかく透き通るような、あらゆる色彩の光があふれています。

自分を肯定し、思いのままに生きていく。ある人にとって、これがどれほど難しいことなのか。知らず知らずのうちに、その誰かの道をふさいでしまっているのではないだろうか。

孤独を感じる全ての人に、そして子どもたちを見守る全ての人に、読んでもらいたい一冊です。

編集長のおすすめポイントは……

「ただの自分」で生きていく

「男の子」でも「女の子」でも、どちらでもない自分。それなのにどちらかの選択を迫られ、「ただの自分」でいることを否定されたとしたら、自分という存在を見失ってしまう子もいるでしょう。けれど、あとがきで少年アヤさんは言います。

「あなたはここにいるし、わたしもいます。
 なにでもなくても生きています。
 いいとか、わるいとかを、飛び越えた事実です。」

自分の中で燃える炎を思いながら、この言葉をしっかりとかみしめようと思うのです。

なにでもないもん
なにでもないもん作:少年 アヤ 絵:阿部 海太 / 岩崎書店

なにでもないもん

作:少年 アヤ
絵:阿部 海太
出版社: 岩崎書店

本記事は「絵本ナビ」から転載しております

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