“どう見てもヤバい” 禁断のレシピ本『ハンニバル・レクター博士の優雅なお料理教室』ドラマの制作秘話なども盛り込んだ、ファン歓喜の1冊【書評】

食・料理

公開日:2025/5/23

ハンニバル・レクター博士の優雅なお料理教室
ハンニバル・レクター博士の優雅なお料理教室著:ジャニス・プーン、訳:加藤輝美/晶文社

 世に料理本は数あれど、まさかこれを商品化するとは――!と阿鼻叫喚の声が相次いだ禁断の一冊『ハンニバル・レクター博士の優雅なお料理教室』(ジャニス・プーン:著、加藤輝美:翻訳/晶文社)。248ページの大ボリュームで“どう見てもヤバい”料理のレシピを解説している。

 本書の中身を紹介する前に、まずはハンニバル・レクター博士についておさらいしよう。彼は小説家トマス・ハリスが生み出した精神科医にして美食家――そして猟奇殺人鬼。1991年には『羊たちの沈黙』として映画化され、第64回アカデミー賞で作品賞ほか主要5部門を総なめ。いまも語り継がれる伝説的一作となった。

 2013年にはテレビシリーズとして新生。“北欧の至宝”として日本でも親しまれるマッツ・ミケルセンがハンニバル役を演じ、2015年までの約3年間・3シーズン(39話)にわたって放送された。各エピソードのタイトルがフランス・日本・イタリアのコース料理にちなんでいるのも特徴で、お料理ドラマとしても人気を博している。

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 本書はこのドラマにフードスタイリストとして参加していたジャニス・プーンが手掛けたもの。いわば公式本であり、“ファンニバル(ハンニバルシリーズの熱狂的なファンの呼称)”においてはコレクターズアイテムなのだが――問題が一つある。ハンニバルの華麗な料理の数々は、ほとんどの材料が人肉なのだ……。

 まさに禁忌の領域に踏み込んでしまった本書だが、安心してほしい。「心臓の用意がない? では牛テンダーロインのみじん切りを代わりに使ってもいいでしょう」「(ハンニバルが作った)そのゼリーは、じつはどこかの気の毒な人の煮込んだ骨と軟骨からつくられたものでした。ですがここでは、その代わりに血のように赤い色をしたサマープディングのレシピをご紹介しましょう」といった感じで、法や倫理に触れない食材で代用されている(いちいち表現が物騒なのはご愛敬!)。

 本書に掲載されているのは、100を優に超える料理の数々。「朝食」「アペタイザー」「メインディッシュ(肉料理)」「メインディッシュ(魚料理とベジタリアン料理)」「スープ、サラダ、サイドディッシュ」「デザート&ドリンク」といったセクションに分けられており、美しくもおぞましいフルコースを堪能できる。「腕の生ハムの羽飾り」「生贄の仔羊の骨つきロースト」「ベジタリアン向けカボチャのラザニア──入れ歯つき」「集合体恐怖をもたらすニンニクのロースト」といった“いかにも”な料理名から「散らし寿司丼」のように一見普通なのがかえって恐怖を掻き立てるものまで、実に多彩。

ベジタリアン・パンプキン・ラザニア・アル・デントゥーレス[ベジタリアン向けカボチャのラザニア──入れ歯つき]
ベジタリアン・パンプキン・ラザニア・アル・デントゥーレス[ベジタリアン向けカボチャのラザニア──入れ歯つき]

 各レシピの説明文も、「ハンニバルは肝臓が大好きです――もちろん自分のじゃなくて、他人の肝臓が、ということですが」「世界中の科学捜査官たちの手をわずらわせずに済むように、このレシピに使うのはビヴァリーの(つまり人の)腎臓ではなく、牛の腎臓にしました」といったように遊び心満載で、不謹慎ながら笑ってしまうはず。さらに、「血をラズベリーで表現した」「マジパンで人間の鼻を作った」といったドラマの貴重な制作秘話が明かされているのも嬉しいところ。ハンニバルの調理器具(という名の凶器)コーナーまで用意されているサービスぶりだ。

レクター博士の調理道具
レクター博士の調理道具

 本稿で紹介したのはほんの一部。本書で繰り返し語られているように「我々はハンニバルではない」を肝に銘じ、一線を越えない範囲で楽しんでいただきたい。

文=SYO

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