トンツカタン森本「お前は渡部になれと言われた」。一段上のツッコミになるために「仲間が必要」と語る理由【『ツッコミのお作法』インタビュー】
公開日:2025/5/28

2025年5月、お笑い芸人・トンツカタン森本晋太郎さんによる初の著書『ツッコミのお作法 ちょっとだけ話しやすくなる50のやり方』(KADOKAWA)が刊行される。本書は、ダ・ヴィンチWebで連載していた「ツッコミのお作法」をベースに、大幅加筆のうえ書籍化されたもので、数々のバラエティ番組でMCを務め、「ツッコミガチ勢」と称される森本さんの真骨頂が詰まった一冊だ。
ツッコミの技術やマインドを、豊富な実例やエピソードとともに紹介しながら、人とのコミュニケーションにおける“ちょうどいい距離感”を楽しく学べる本書。「人を笑顔に出来る確率を“ほんのり”上げる」コミュニケーションとは何か。その哲学がユーモアたっぷりに語られている。
ダ・ヴィンチWebでは、著者・森本晋太郎さんにインタビューを実施。ツッコミの奥深さ、そして人との関係を築くためのヒントを、森本さんならではの視点で語ってもらった。
――本を作るという初めての仕事をしてみて、いかがでしたか?
森本晋太郎(以下、森本):自分のツッコミ論のほぼ全部を、この中に詰め込むことができたかなという達成感はすごくありますね。ちょっと仰々しくなっちゃいますけど、現時点での自分の芸歴のすべてがここにしたためられたかなって。それぐらいのものになってると思ってます。
――「おわりに」では、「人生でこんなにもツッコミと向き合ったのは初めて」と書かれていました。ツッコミとあらためて向き合って、何か新たな発見はあったでしょうか。
森本:「これはたしかに自分が結構心がけていることだな」と、再認識した部分はありました。特にそう思ったのが、「相手の立場や関係性によって、使えるツッコミは本来の50%に減ったり選ぶべき文言が変わったりする。ツッコミが苦手な人は、それができなくて常に全部がフルパワーで言える状態になってしまってる」という話ですね。今までわりと無意識でやっていたことを、本を作る中でうまく言語化できたと思います。

――その場その場でどういった判断でツッコミを入れているのか、思考回路の一端がうかがえて興味深い箇所でした。かつ、森本さんも最初からそれができていたわけではないというお話でしたよね。
森本:やっぱり若い頃は「ツッコミで笑いを取るぞ」って意気込んでいて、それで結構失敗もしてきました。今もその思いはあるにはあるんですけど、それよりも「ツッコミで良い空間にしたい」「みんなで楽しくやろうよ」ってマインドが強くなってますね。この変化は結構大きかったと思います。というか、めっちゃ引きで見たら、お笑いって本来は楽しくやっているところを見せて楽しんでもらうものだよな、って。変にギスギスする感じがなくなったのは、ツッコミとしてはもちろん、人間としても大事だったのかなと本にしたことによって思えました。
――逆に「自分はまだこういう部分が足りてないな」「こういうスキルを身につけたいな」とあらためて思ったところはありますか?
森本:ありますね。僕とまったく違うタイプのツッコミの人が得意としてる技は、やっぱりうらやましく思うところはあります。シンプルに声がめっちゃ通るとか、とにかく速いとか。ツッコミにおけるそういうベーシックなスキルは、伸ばせるものならもっと伸ばしていきたいですね。
――それは伸ばせるものなんですか? ボイストレーニングに行ったりすると変わるんでしょうか。
森本:うーん……でも僕、ひな壇で声が通るようになるためにボイトレ通ってる自分、あんまり好きじゃないかもしれないです(笑)。
――本書の中で森本さんはご自身をサポートタイプのツッコミだと分析されています。それでいうと、同じ人力舎の先輩であるアンジャッシュ・渡部(建)さんとタイプが似ているといわれることが以前からありましたよね。
森本:そうですね。人力舎の社長にも言われたことがあります。ある日のライブを社長が見に来てて、終わった後「森本、ちょっと来い」ってわざわざ呼び出されて、何かと思ったら「お前は渡部になれ」って。ただ、その1〜2年後に渡部さんがいろいろあって、そこから何も言ってこなくなりました(笑)。
――今年2月にライブ『ワタベコンサル』でご一緒されていたじゃないですか。渡部さんがメインで森本さんが進行役という形でしたが、間近で渡部さんの仕事を見て、何か学ぶものはありましたか?
森本:アンジャッシュさんの番組に出させてもらうことはありましたけど、渡部さんと僕の2人でしっかりお話させていただくお仕事は初めてで。渡部さんはコミュニケーションのスキルはもちろん一級品ですし、恐ろしいなと思ったのは、「ここはいけるな」ってタイミングで自分の自虐話を入れ込むんですよ。
僕みたいなタイプは会話の中で糸口を見つけて笑いに持っていくんですけど、渡部さんはそれもできる上に、糸口が見つからなそうだったら自分で切り拓いて強引に笑いに持っていける。とんでもない武器……まぁ同時にカルマでもあるんでしょうけど(笑)、それを手に入れたことでワンタッチで爆笑に持っていくことができるようになっていて、とんでもない領域に入ったなと思いましたね。ただ不思議と、うらやましくはなかったです。
――あの武器が欲しいかというと……。
森本:僕にはあの剣はまだ重すぎます。

――(笑)。あの剣は重すぎるにせよ、ここからもう一段上のツッコミになるためには何が必要だと考えてらっしゃいますか?
森本:仲間ですかね。もっともっといろんな人に信頼されることが必要なのかなと思います。多分、スキル面においては、必要なのは場数になってくると思うんです。そこはいろいろ経て自分でつかんでいくしかない。そうなってくると、あとはいろんな人に心を開いてもらって「あの人、森本がMCのときだけ饒舌だよね」「グイッとボケてくるよね」と思ってもらえるかどうかが大事になってくるのかなって。だからやっぱり、この本でも書いた通り、大事なのは信頼を獲得することなんだと思ってます。
――共演相手や制作者からはもちろん、観ている人からの信頼を得ることも大事ですよね。
森本:そうですね。正直、そんなにお笑い好きでもない人が僕をいきなり見たら「なんなんだ、この人」ってなると思うんですよ。だからとにかくいろんなお仕事をさせてもらって、ちょっとずつ「あれ? なんかこの人、前もどこかで回してなかった?」って思われるようになる必要があるのかなと考えてます。
――サブリミナルだ。
森本:サブリミナル・グラデーションです。1回、2回……3回目ぐらいで「あ、この人、トンツカタン森本って人だよね」、4回目で「森本さん、これも回してんの!?」みたいになったらいいですよね。生活に徐々に侵食していく感じで。そういう積み重ねで観ている人の信頼も獲得したいです。
――最後に、この本はどんな人に読んでほしいですか?
森本:「読み物として面白くなるように」というのは心がけたので、単純に読んで楽しんでいただきたいですね。『話しやすくなる50のやり方』なんてタイトルですけど、載っている50個全部が使えるかっていうと、そんな人はなかなかいないと思うんですよ。だから「50のうちの1つか2つ使えるものがあったらいいな」ぐらいの気持ちで読んでいただいて、その1つ2つが実生活で「有用だったな」って思ってもらえるような本になっていたらいいな、と思います。
――逆に、読んでほしくない人は?
森本:お笑い芸人の先輩には誰一人読んでほしくないです。特にツッコミの方には。

取材・文=斎藤岬、写真=齋藤優龍